お日様と影<番外編>


「ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんっ!」
「まぁまぁ、俺は別になにもしてないし…」
「いえ!10代目の洞察力に感服しました。改めて尊敬します!」

獄寺にキラキラした瞳を向けられ、ツナはひきつった笑いがこぼれる。
大したことをしたわけじゃないのに、右腕のボスへの心酔っぷりは昔から変わらない。

執務室へ戻った二人は、瓜を動物用のベッドへ寝かしつけてからソファへ腰を落ち着けた。

ツナはネクタイを弛めて、獄寺が入れてくれたアイスコーヒーに口をつける。
自分でも気づかないくらい喉が渇いていたのか、一気にグラスの黒い液体を飲み干してしまった。雲雀のところへ行って、余程緊張していたのだろう。

…生きた心地がしないな。

正直、咬み殺されるのを覚悟していたツナだった。
だけどディーノのおかげで事なきを得て、そそくさと逃げ帰るように雲雀のアジトから脱出できた。

「だけど意外だったな」
「何がですか?」
「いや、ディーノさんと雲雀さんが。ディーノさんは分かりやすいっていうか、相変わらずイタイっていうか、一方通行かと思ってたんだけどそーでもなさそうだなぁって」

ディーノの話だけを聞いていると、雲雀がなんで彼と付き合いだしたか全く理解できなかったけれど、ディーノが言うほど愛情がないように思えなかった。

ディーノに対するあの過剰な反応は、どう見ても嫉妬だ。
割と物事の察しはいいはずのディーノは、雲雀に関してはびっくりするくらい疎くなる節がある。恋は盲目というけれど、自分の想いが先行しすぎて雲雀本人が見えていないのではないかと少し心配になった。

…というか、別に知りたくもない事実ではあったのだが。

「ちっ。瓜が騒がせたせいで、雲雀に無駄な借りを作っちまって…!」

騒ぎの原因は獄寺なのだがそれも瓜を心配してのことだし、すぐに怒って怖そうなイメージが定着している獄寺は実のところかなり仲間思いなことを知っているツナは、それを思うと「あぁ、そうだね…」と適当な相槌を打つしかできない。

「てかさー、なんで先に雲雀さんとこ行っちゃうかな。俺に相談してくれたら良かったのに」

隣に座った獄寺にずい、と前のめりで迫って口を尖らせる。
ディーノから電話があったとき、それが一番面白くなかった。

「うっ…。すいません、動揺してて…」
「それはさっき聞いた。あのね、君が困ってるなら例え何にもできなかったとしても、俺だって一緒に悩みたいって思ってる。だからこういうときは、一番に俺に相談して。いい?」

もし獄寺に犬の耳としっぽがついていたら、それはしょんぼり下を向いていたことだろう。
主に怒られて相当ショックなのか、「…ハイ」と小さく返事をするのが精一杯だった。

その姿があんまり可哀想で、可愛くて、何だかんだで獄寺に激甘のツナは「分かればいいよ」と微笑みながら鼻の頭にチュッと口づけした。

ディーノさんには悪いけど、やっぱ俺の恋人のほうが断然キレイでカッコよくて可愛いよなぁ。

惚れた欲目だと言われたらそうかもしれない。幾度となく肌を合わせているのに、未だにちょっとした触れ合いにでさえ恥ずかしがる初々しい彼を知るのは自分だけだ。
他の誰かに目を奪われる余裕なんて、出来るはずがなかった。

「あ…の。まだ仕事中なんで、ネクタイ締めて貰えませんか。なんつーか、その…」
「どうしたの?」

軽く胸を押し返されたツナは、自分を拒否するなんてめったにない獄寺に驚いて顔を覗きこんだ。

「10代目がすげぇセクシーで、変な気分になるので…。ちょっと、ヤバいです」

帰ったときに息苦しさから解放されたくて弛めた胸元を思い出す。
至近距離のツナに耐えられなくて、頬を赤く染め右手の甲を口許にあてた獄寺は悩ましげに目を伏せていた。

あぁもう全くなんだって、獄寺くんはいちいち俺のツボをついてくんのかなぁ。

可愛いくて愛しい恋人に胸がぎゅうっとすることを言われて、我慢できるはずがない。
視線を合わせない獄寺の頬を両手で捕らえ、ツナはうっとりと指を這わせる。

「そうなんだ?じゃあ、どれくらいヤバいのか…教えて?」
「やっ…。まだ、未処理の書類がっ…」
「獄寺くん…」
「…―ん、ダメ…ですって……」

変なスイッチが入ったツナを押し退けようにも、獄寺はソファに倒され身動きがとれない。
唇を激しく奪われ、柔らかいはずの舌が荒々しく絡み合い快楽に頭がぼぅっとしてきた、

――その時。

「ツナー、さっきは悪かっ…た……。あ、邪魔したか?」

ガチャリ、とノックもなく開いた扉から現れたのはディーノだった。

「―――!!」
「ディ、ディーノ…さん?」
「すまねぇ。かわまず続けてくれ。さっき雲雀が迷惑かけたから挨拶してから帰ろうと思っただけだからさ」

キラキラした笑顔を称え、そのまま颯爽と立ち去っていく兄貴分に、ツナは固まり、獄寺の声にならない声はアジト中にこだました。


やっぱり雲雀に関わるのは良くないと改めてツナは思う。
あそこは自分にとっての鬼門だ。

この後、執務室でいかがわしいことをしようとした天罰なのか、遅々として進まなかった書類整理を夜中までさせられる羽目になったツナだった。



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