ヒバードさんがいっぱい そこは、都心の中心部にも関わらず人の出入りが少なく、奥まった住宅地の一角にある小さな隠れ家だった。 「ふーん、いいんじゃないの」 「おめーも文句はねぇな」 「ああ、ここなら怪しまれることはねーし、外からも見えにくい。そのうえ四方八方に逃げ口があるから万が一の時にも問題なさそーだ」 一通り辺りを見回し、頷いたのは黒のジャケットに身を包んだ雲雀と同じくいつもよりは上質なスーツを纏った山本だ。他の守護者である良平やクローム、ランボーは生憎綱吉の命でイタリアへ飛んでおり不在にしているが、雲雀と山本の了承を得られたのならここに決めても良いだろうと獄寺は満足げに頷いた。 綱吉が高校を卒業し、イタリアへ飛んだのが今から数ヶ月前の事。 一足早く現地で戦術や薬物訓練などをこなしていた雲雀の師匠でもあり、綱吉の兄弟子でもあるディーノから隠れ家の話がでたのとほぼ同時に、会食中他マフィアとの抗争に巻き込まれたのはほんの偶然。 幸い獄寺や山本の機転で怪我などはなかったが、いつもは一番に反対するはずの獄寺が率先してアジトに相応しい場所を探し始めた。 その日本における隠れ家が、ここだ。 入ってすぐ正面にはカウンターがあり、左右に広がるのは奥まった空間。 奥には寛ぐための革張りの上質なソファー、窓際には小さなテーブルとハイチェア、カウンター脇には食事をするためのダイニングテーブルがいくつか備え付けられているが、この辺りは改装すれば問題はない。室内は互いの顔が判別できるくらいの灯りしか灯されてなく、天井が高く気配を闇に消してくれるのも利点の一つだった。 「じゃあ俺は10代目を呼んで来るからな。ヒバリ、帰るんじゃねーぞ!」 気付けばすぐにいなくなる雲雀に釘を刺して、獄寺は嵐の如く駆け出していった。 「ははっ、相変わらずなのな!」 山本が楽しそうに笑う横で、雲雀はふと窓際に視線をやった。 鉄則として狙撃される場所の傍には寄らない――のは常識だが窓の外からつつく黄色い物体に気付き構わずに窓際によると小鳥が顔を出した。 「ヒバリ、ヒバリ」 「ついてきたの」 「イッショ、イッショ」 「仕方ないね」 雲雀は苦笑いを浮かべると、いつものように指先を差し出す。ヒバードは小さな体に反する大きな羽を広げると、ちょこんと定位置に降り立った。 「ヒバリ、カエル」 「まだね。うるさいのが帰ってきてから」 その言葉にヒバードは首を傾げ、後ろで話を聞いていた山本は小さく吹き出した。 「…ぷっ、うるさいのって獄寺か?ひでーな」 「君もうるさいよ」 「まーまー。ってか、なんでヒバード置いてきたんだ?かわいそじゃね?」 それこそいつも常に一緒なのに。 山本が雲雀の後ろから覗き込むと、ヒバードが嬉しそうに羽をぱたぱたさせる。 「ウマレル!ウマレル!」 「は?」 「ヒバード、アカチャン!」 要領を得ないヒバードの言葉に山本が首を傾げると、仕方なく雲雀が補足した。 「この子の番が、雛を生むんだ。だから置いてきたんだけど」 「へー。ヒバードに子供ねぇ…可愛いんだろうな!後で見て良いか?」 「断る」 「そう言うなよ。な、ヒバードだって良いだろ?」 「ヤマモト、クル!クル!」 思いがけないところでふたつの視線に囲まれ、雲雀は暫し考え込んだ後肩で息を吐いた。 「……大人しくしてるなら」 「ああ、一言もしゃべらねぇ。な、ヒバード!」 「ピイ!」 そんなやりとりをしていると、やがて賑やかな声が多数舞い込んできた。 綱吉を迎えに行った獄寺と、当の綱吉、そしてなぜか一際高い身長のディーノに、キャバッローネファミリーの連中。 ぞろぞろと入ってくる様子に、雲雀はげんなりしながらも山本の影になるようにヒバードで指遊びを始めた。この際うるさいのは、多少覚悟している。自分に構わないなら、それでよい。 そんなオーラを発したのも束の間。 「大変です…!!!!!!」 続いて飛び込んできたのは、相変わらず葉っぱを口にくわえリーゼントで頭を固めている草壁。 いつもは大人しい彼が珍しく取り乱している姿に誰もが唖然となる。 「恭さん、大変です!生まれました!こう、ピヨピヨッと!それはもう、目に入れても痛くないほどの愛らしさで…!」 言いながら胸元から携帯を取り出す草壁を、雲雀が咬み殺したのは言うまでもない。 2012.05.23 |