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カロス:映し身の洞窟
『美しい洞窟の多いカロスには【洞窟愛好家】なるものもいるらしい。かなりマイナーな雑誌の主催であったと記憶しているが、【カロスの洞窟10選】にも選ばれた不思議な洞窟が【映し身の洞窟】だ。洞窟内部の切り立った岩壁が鏡のごとく反射し、合わせ鏡の要領で周囲のものをはるか彼方まで映し出し、荘厳な風景を魅せる。

 私はセキタイタウンでの取材を終え、シャラシティへ向かっていた。国道11番・ミロワール通りからシャラシティへ行く手段として【映し身の洞窟】を通り抜けるという手があり、少なくとも地図上ではこれが最短ルートである。しかし私が洞窟へ入ろうとすると、声をかけてきた老人がいた。彼によると、洞窟は道が入り組んでいるし、鏡に惑わされて迷いやすく危険であるし、何より、中には【惑わすもの】がいる、らしい。地元の人間はみな洞窟を避け、遠回りの道を選ぶのだと言う。

 合わせ鏡にまつわる話は、どこの国へ行っても悪いものばかりだ。ここカロスでも、真実を映す鏡は宝石の次に縁起ものであり、そして不吉なものである。合わせ鏡には空間を捻じ曲げどこか別の世界に繋げる力があると言われ、それは時に人を恐怖に陥れ、時に富をもたらし、時に【鏡の向こう】へ連れ去り、【鏡の向こう】の良くないものを引き寄せてしまう。

 鏡の向こう…それがどこかは私の知るところではない。こうやって手記を書いている間にも、映し身の洞窟は背後に小さくなっていく。私は親切な老人に連れられ、迂回路を使いシャラシティへ向かっている。私の旅行記に【異世界】という項目を増やすチャンスだったことは確かだが、旅というものは、帰る確証を得て初めて成り立つものだ、というのは、私の個人的な、ささやかな持論である。』

(ジルベールの手記より)



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