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カロス:映し身の洞窟
『美しい洞窟の多いカロスには【洞窟愛好家】なるものもいるらしい。かなりマイナーな雑誌の主催であったと記憶しているが、【カロスの洞窟10選】にも選ばれた不思議な洞窟が【映し身の洞窟】だ。洞窟内部の切り立った岩壁が鏡のごとく反射し、合わせ鏡の要領で周囲のものをはるか彼方まで映し出し、荘厳な風景を魅せる。

 私はセキタイタウンでの取材を終え、シャラシティへ向かっていた。国道11番・ミロワール通りからシャラシティへ行く手段として【映し身の洞窟】を通り抜けるという手があり、少なくとも地図上ではこれが最短ルートである。しかし私が洞窟へ入ろうとすると、声をかけてきた老人がいた。彼によると、洞窟は道が入り組んでいるし、鏡に惑わされて迷いやすく危険であるし、何より、中には【惑わすもの】がいる、らしい。地元の人間はみな洞窟を避け、遠回りの道を選ぶのだと言う。

 合わせ鏡にまつわる話は、どこの国へ行っても悪いものばかりだ。ここカロスでも、真実を映す鏡は宝石の次に縁起ものであり、そして不吉なものである。合わせ鏡には空間を捻じ曲げどこか別の世界に繋げる力があると言われ、それは時に人を恐怖に陥れ、時に富をもたらし、時に【鏡の向こう】へ連れ去り、【鏡の向こう】の良くないものを引き寄せてしまう。

 鏡の向こう…それがどこかは私の知るところではない。こうやって手記を書いている間にも、映し身の洞窟は背後に小さくなっていく。私は親切な老人に連れられ、迂回路を使いシャラシティへ向かっている。私の旅行記に【異世界】という項目を増やすチャンスだったことは確かだが、旅というものは、帰る確証を得て初めて成り立つものだ、というのは、私の個人的な、ささやかな持論である。』

(ジルベールの手記より)




ミカルゲ族について
 シンオウの奥地に住む一部のミカルゲ族は、この世に数ある煩悩を自らの魂に抱え、邪悪なものを人々から遠ざけ生きることで、人の世に迷いのない平和が訪れると信じている。煩悩を魂に抱えるための儀式にて、被術者は肉体を焼かれ、その灰から作られる要石に魂が移される。
 要石となった者は、石が破壊されない限り死ぬことはないが、それを破壊することは容易である。他者による移動手段しか持たず、たいていどこかに祀られるか、外の世界に出て行く場合は、理解ある主を見つけ共に行動してもらう必要がある。死ぬまで主の命に背いてはならない。袂を分かつ時は、主を殺さなければならない。




分類不可種族:メタモン族について
 この種族の生態は謎に包まれている。決まった形がなければ、個々の独立した精神を持っているのかも怪しく、種の全てが意識共有していると言う学者もいる。彼らは触れたものを完全に理解し、自らの身体組織を再構築してそのものとなる。ゾロアーク族が幻覚により姿形を偽るのに対し、メタモン族はコピー元の姿のみならず、能力や記憶、思考までもを引き継いだ完全なクローンとなることができる。そしてそれは人間である必要はなく、例えば道端に生えている何の変哲もない木が、もしかしたら彼らであるかもしれない。
 裏社会では古くからその存在が重要視されてきた。人の形でなければ自己表現の術を持たない彼らは、常に飼われ使われる側の存在である。雄しか存在しない種族は彼らに頼って繁栄をしてきたし、時にその能力は、人ひとりの人生そのものを奪うような悪用のされ方をすることもあった。彼らは他種族と交わり他種族の子をつくることはできるが、自分と同種族の子はつくることができない。何らかの理由で死を迎えることはあるが、なぜか世界に一定数存在している。
 彼らは同族他種族に関わらず、この世の全てのものに対する感情が薄く、また自分に対する興味もない。他種族と同じ人間であるという意識もないが、世界の成り立ち上は、変幻自在の身体とひとつの魂と個々の精神をもった人間である。




カントー:グレン島とシオンタウン
『火山の噴火が全てを飲み込んだその日、島民は誰ひとり同情されなかった。なぜかって?だってグレンは【鬼ヶ島】だから…。

 桃太郎を知っているかい。昔々の話だ。島へ桃太郎がやってくる。彼は犬と猿と雉に連れられ、船でやってくる。彼は島に住む鬼に喰われるためだけにやってくる。…桃太郎は、農民が汗水垂らして作った桃を横取る、醜く肥えたお役人で、罪人だった。処刑場であるグレン島の、処刑人であるグレンの民、我々の先祖は…【鬼】と呼ばれ蔑まれた。我々だけでなく、当時穢れを扱う者は皆、ヒトとは扱われなかったものだ。

 【鬼に喰われる】というのは決して比喩ではない。グレンは小さな島だ。ろくに作物も育たない貧しい土地で貧しい生活を送る島民には、定期的に外の世界から【肉】が送られてくるなんて、ありがたい話だったってわけさ。【グレンの赤は情熱の色】なんて、遠くから島を見る、外の世界の奴らが言ったこと。どうして島が赤いのか…、本当のことを知るのは、鬼の血を守る者だけでいい。

 …何の事か分からないって?アハハ、そうやってあまり深く聞くものではないよ。ここシオンには、噴火から逃れたグレンの民の末裔が住んでいる。皆、あなたのような外の世界から来た人間を見ると鬼の血が騒ぐのさ。…アハハハ、冗談冗談。さあ、昔話はここまでにして、夕食でも一緒にいかがかな。ついつい話が長くなってしまったからね、きっと皆腹をすかせて待っているよ。

………』

(誰の手にも渡らなかったテープレコーダーより)




イッシュ:ヤマジ総合病院
 ヤマジタウンは、高温と乾燥の厳しい、強風吹き荒れるリバースマウンテン麓の町である。町民や付近に住む殆どが他の街からの移民で、一般にはスラムと呼ばれる地域だが、治安は比較的平和である。その貧困層の者達に有難がられていたのが、イッシュ東部最大の医療設備を有していたヤマジ総合病院である。百年ぶりに再来し、7年前に大流行し、多くの死者を出した伝染病『カース』の件は記憶に新しいが、最初の感染者はこの病院で見つかったとされる。
 7年前の『カース』流行による死者数は正確には公表されていないが、イッシュ人口の十分の一とも言われている。予想を上回る感染者に病院はパンクし、院内感染で医療スタッフすら奇病に倒れていく、さながら地獄絵図のようだったという。機能停止したヤマジ病院は、町政府との話し合いの末、町を閉鎖し、その後感染者への治療を一切行わなかった。理由は不明であるが、同院は医療スタッフのボイコットだと発表した。
 『カース』収束後、イッシュ中の大病院が流行病への対応不足によりバッシングを受けた。ヤマジ病院もそのひとつで、所属医師は免許を剥奪され、元々赤字続きだった病院は閉鎖に追い込まれた。そこで何が起きたのか、ヤマジがゴーストタウンとなった現在、語るものはいない。




ゴーストタイプと『のろい』
 神話では現世と黄泉との境界に住む者と扱われた種族。精神の力、特に負の力が強いとされる。身体と魂の結びつきが弱く、何らかの理由で魂と精神だけの存在になってしまうことがあるが、ゴーストタイプと言えど、大抵の場合はその状態になった時点で死亡(消滅)する。

 『呪い』は太古から現代に至るまで存在する、誰かの不幸を願う行為である。丑の刻参りのようなまじないの類は、どこの国にもあるただのオカルト話であり、特別恐ろしいものではないが、ゴーストタイプの人間が誰かを呪うという行為は、一転して不幸を必ず叶える黒魔術に変貌する。
 彼らは自らの魂を代償に力を使う。削られる魂の量は願う不幸の大きさに比例する。誰かの右足の骨折を願えば、術者の両足を動かすだけの魂の力が失われる。人ひとりの死を願えば、術者の魂も表の世界で消滅し、転生することはなくなる。

 人間が無闇に魂を消費する行為を、世界を管理する神々は良く思っていない。ゴーストタイプの者達はこれを禁術とし、歴史の中でその存在を何度も葬ろうとしてきたが、現在でも密かに語り継がれているという。




イッシュ:ワンド・オロール
3千年程前に栄えた王政都市国家。現在の『リゾートデザート』及び『古代の城』を含む『ワンド遺跡群』で、当時のイッシュ地方で最も繁栄した国である。農耕が盛んに行われていて、故に太陽を神として祀っていた。日の出と日の入りの時刻や星の軌道の観察記録が記された膨大な書物が残されており、それら資料からは、国家が天文学に優れ、星々を神聖視し、高度な文明を保持していたことが見て取れる。

『色違い』への差別が激しかった当時のイッシュでは珍しく、色違いを容認する国であった。他地域からの密入国者も快く受け入れ、希望者があれば、交流のあったカロス地方へと亡命させるため、船を用意するなどの手助けをしていたという。

一方で、イッシュにおける『拷問具』の歴史がこの国から始まっていることは、その界隈では有名な話である。現在ワンドのあった場所は荒涼たる砂漠であるが、当時は緑豊かな土地だった。人々が農業に勤しむその下、国のシンボルである城から放射線状に伸びる地下通路の先に拷問施設があった。目を覆いたくなるような拷問具の数々はそこで生まれ、罪人や捕虜を相手に使用されたと言われている。

栄華を極めたワンド・オロールであったが、この国の民はある日一夜にして一人残らず死に絶え、都市は廃墟と化した。原因は未だに解明されていないが、現在まで続くイッシュの『流行病』の始まりがワンドだったのではないかと推測されている。




ホウエン:千星社にて
『13時頃、【Edge Research】52号記載内容について、カロスの方から電話有。同誌は50号で廃刊になり、それ以降の刊行はしていない旨を伝える。表紙や本文の印刷ミスが疑われるため回収を提案したが、断られた。過去発行物の確認を大至急お願いします。
追伸:煙草は外で吸ってください! ロッサ』

(グーセンのデスクに置かれたメモより)




カントー:シオンタウン
『2週間前、カントー・ジョウト間でリニアが開通した。カロスのニュース番組でも連日報道があり、両国の技術力の高さを褒め称えている。リニアモーターカーとは、通常の鉄道車両と違い、磁気で車両を浮かし高速で走る乗り物だそうで、これまで海路と国境路で行われていた2国間の行き来がより速く便利になるという。百聞は一見に如かず、と言う訳で今朝、カントー・クチバ港に到着。リニアが発着する駅のあるヤマブキシティまではバスが出ていたのでそれを利用した。

 カントーには過去に何度か来たことがあるが、とても親切な国柄で、この行き当たりばったりな旅行者が道を聞いても呆れず丁寧に教えてくれる。バスの中で品の良さそうなご婦人と隣り合い、道中談笑した。旅行者の多いクチバ港からのバスであったため、私と同じく観光旅行でかつリニアにでも乗りに行くのかと思えば、ヤマブキを経由して自宅のあるシオンへ帰るのだという。どこかで聞いた町名だったので詳細を尋ねるとご婦人は、何もない山間の田舎町だと言った後でにっこり笑い、こわい噂以外は、と付け足した。そして『鬼』にまつわる民話を教えてくれた。『死者は鬼になる。人々は鬼を畏れるが、鬼は人々に無関心である。鬼と対峙する人々は敬われるが、同時に鬼として人々に畏れられる』と。我々には馴染みがないが、鬼は東国ではポピュラーな架空のモンスターで、恐怖や暴力を表したものであるらしい。話の意味を問うとお茶を濁されてしまった。

 後日調べたことだが、シオンタウンはカントー最大の墓園を領土内に保持し、今では世界中で当たり前になったタワー型墓地を初めて建設したことで有名な町だ。墓場というものは縁者以外を寄せ付けない独特の雰囲気があるが、東国のそれはなんとも恐ろしい気に満ちている。シオンは町の大半を墓地が占めるというのだから、鬼が出るという噂もあながち嘘ではないのかもしれない。…とても、確かめに行く勇気はない。そういう訳で、小心者の旅行者はシオンを訪れることなくヤマブキの図書館で1日を過ごしてしまった。いつか心霊スポットの取材依頼でもあれば、やむなく訪れることもあろう。明日、旅の目的であるリニアに乗り、ジョウト・コガネシティへ向かう。』

(ジルベールの手記より。文頭には20年前の年月日が書かれている)




シンオウ:ハードマウンテン周辺
年中寒冷な気候であるシンオウ唯一の避寒地。キッサキシティから出ている往復船で行くことができる。元々ハードマウンテンの麓には溶岩が固まってできた岩石地帯と森林しかなかったが、その周りを囲うように埋め立てがなされ人の住める環境に整備された。火山による地熱で本土より10度前後気温が高く、民家の他に別荘やホテル、会員制リゾートクラブなどが立ち並ぶ。ハードマウンテンは活火山であるが、祀っている土地神の力により大規模な噴火は起こらないと誰もが疑いもなく信じている。炎司御三家の本家が置かれており、シンオウの都市開発推進派の拠点となっている地でもある。




紙の文化
古い時代、人々が文字を書き始めた頃、紙は大変貴重なものだったため、後の時代まで、紙に書かれた文書や本は神具と同等の扱いをされた。通信技術が発展した現在でも、重要な用件は必ず文書で伝えられ、人々は手紙をしたためる。また、どの地域にも郵便事業に関わる国の機関が置かれ、特に直接人々に手紙等を届ける配達人は、国家公務員の中でも上位職種となっている。




ジョウト:水鳴学園の七不思議
(1)夜中、誰もいない音楽室のピアノが勝手に鳴っている。
(2)夜中、美術室の石像同士が談笑をしている。
(3)夜中、北棟3階の渡り廊下に飛び降り自殺をした女子生徒の霊が出る。
(4)夜中、理科室の人体模型が血を流している。
(5)夜中、職員室の前の姿見に全身を映すと向こう側の自分と会話ができる。
(6)夜中、体育館でバスケットボールをしている首のない生徒がいる。
(7)夜中、校庭の記念碑からすすり泣く声が聞こえる。

(8)毎年、数人の生徒が「生贄」として神隠しに遭う。




イッシュ:シッポウシティの芸術祭
芸術家のアトリエとして長く使われてきた倉庫街が、図書館及びそれに付属する博物館を中心に発展したのが現在のシッポウシティである。年4度街が主催する大規模な芸術祭は、イッシュでも有名な祭りのひとつで、街の外から多くの客やパフォーマーが訪れ賑わう。ある人はダンス、ある人は即興似顔絵、ある人は大道芸、得意なものを披露し人々を楽しませている。露店では、手作りの1点ものアクセサリーや陶磁器、勿論食べ物も売っている。1週間続くこの祭りは、普段は静かで小さな街であるシッポウの重要な財源でもあり、古い倉庫街の景観維持に役立てられる。




イッシュ:呪われた国
数十年から数百年周期で、イッシュ全土に甚大な被害を与える流行病が存在する。そもそも多種多様な種族が一処に暮らすこの世界では、特定の病気にかかる種族、かからない種族がおり、伝染病というものはさほど恐ろしいものではないが、『カース』と名付けられたこの伝染病は、種族や老若男女問わず、人々を苦しめ死に追いやってきた。症状は全身の気だるさから始まり、目のかすみや頭痛、やがて突然の失明。数日のうちに内臓器官の崩壊が起こり死に至る。古くからこの病に対抗するため、研究・治療がなされているが、流行する時期も、原因も、治療法も未だに分かっていない。これは病などではなく、この国にかけられた、文字通り『呪い』なのだと言う学者も存在する。




悪質な勧誘にご注意ください!
『自警団を名乗る集団から勧誘を受けたことはありませんか?彼らは国家転覆が目的のテロリスト集団です。残念ながら、自警団という善良的名前と、悪質巧妙な手段により、規模が年々大きくなっています。大犯罪の片棒を担がぬよう、怪しい勧誘には勇気を持って断りましょう。』

(ヒウン警察からの注意喚起ポスターより)






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