集合 [ 74/78 ]
間に合わなかった。
あと数m、もう少しだったのに目の前の億泰はチリ・ペッパーに首根っこ掴まれている。
『お前の兄の『形兆』はお前のことを「足手まとい」と言ってたな。
その通りだな……精神が未熟なんだよお前は……あの兄貴を精神的に上回ってなきゃあ敵討ちなんて最初から無理なんだよ、ボケが。ギャハハハハ――――
バイバイだ!承太郎!仗助!これから港に来る……確かジョセフ・ジョースターだったかなァ!その老いぼれもこいつら虹村兄弟と同じ目に遭ってもらうぜッ!俺の勝利だッ!』
チリ・ペッパーの発する電気がよりすごいものとなる。
これは、あの時みたいに引き摺り込まれる!!
「ああ〜ッ、億泰君がぁ――ッ」
「ペンタクルスッ!!」
億泰が引きずり込まれてしまう前に、影をとらえようとする。
けれどあともう少しのところで掴むことはできなかった。
「わああ、引きずり込まれたッ!」
「嘘……。」
康一君は電気ケーブルに駆け寄る。
間に合わなかった。あの時と同じように億泰は電気ケーブルへ引きずり込まれて……。
「あそこまで追い詰められて切り抜けるとは……やれやれだ。逃げられたか……」
「かなりやばい『スタンド』っスねェ〜。遠隔操作ができて……しかもパワーじゃ電力会社すべてを利用できる無限大!」
「時を止めても少しきついんじゃあないかな、あの早さじゃ。」
……何を言っているんだろうこの人たちは。冷静に敵の分析なんてし始めて……人が一人死んだっていうのに。
「何を!?何を言ってるんだあんたたちッ!億泰くんがこ……殺されたって言う時に……何を言ってるんだその言い草はッ!敵の能力の分析なんか「康一君の言うとおりです!なんでそんなに冷静でいられるんですかッ!!こんな……」」
「あー、えっと……まあ落ち着いて二人とも、億泰君は大丈夫だから」
感情的になっている私と康一君を諭すように莉緒さんが言う。
大丈夫、って言うのはどういうことなのか……どう考えたって今ので億泰は……
「ン!そうだったな、億泰の心配をするか……不幸中の幸いってやつだ……億泰には強運が付いているようだな」
「そおーっすね。億泰の奴は『右腕』を切断されたのが幸運だったっスね!」
「「……えっ!?」」
どういうことなのかと私と康一君がわけわからないでいると、仗助はクレイジー・ダイヤモンドで億泰の右腕に触れる。
「この『腕』を治すっつーことはよぉー康一〜っ、千里〜っ。体は戻ってくるっつーことよ」
「「あ!!」」
そうか、そう言うことだったんだ。だからみんな落ち着いていたんだ。
理解したと同時に、ケーブルの中から億泰が出てきて落ちていた腕にくっつく。表現がおかしいけれど、本当にそう言う光景なのだから仕方ない。
「や、やったあ〜いッ!億泰君が戻ったあーっ」
「良かった……。」
私たちがほっとしていると、億泰は悔しそうに地面に膝をついていた。
「く……くっそお〜……お、俺は……あの野郎に……完全に………負けた……。」
そんな億泰に、康一君が近寄る。
「敵討ちだとか勝つとか負けるじゃあなくて、ジョセフ・ジョースターさんを守ることを考えるんだよ億泰くん。
それが『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を倒すことに繋がるんだ……君はそれをしなくちゃあいけないよ!皆のためにさ……僕らが住んでるこの町の為に……」
康一君の言葉を聞き、落ち込んでいた億泰は、ハッとしていた。
多分、これなら大丈夫だ。億泰はちゃんと立ち直れる。
「承太郎さん…相当ヤバい相手っスよ〜っ、甘く見てたっスよ俺ェ〜!」
「チリ・ペッパーより先にジジイの船に着かなくてはならん。港に急ぐぞ」
そんなことお構いなしに話を続けている二人が後ろにいるけれど……。
「ちょっとお二人さん!クールすぎやしないッ!?億泰君がショック受けてるって言うのにィ〜ッ!」
「ほんの少しでいいから心配してあげてください……」
二人に対して私は深く溜息をつく。
「『兄貴を超える』か……学ばしてもらったよ……『チリ・ペッパー』」
「ふふっ、良かったちゃあんと立ち直れていて。」
つぶやく億泰に、いつの間にか隣まで来ていた莉緒さんが返す。
「莉緒さん……!」
「男の子はそうやって大きくなっていくものだからね、さっ次こそ『チリ・ペッパー』倒そっか。」
「っ、はい!」
たまにはいいこと言うな、この人……。たまにはなんて言ったら怒られそうだけど。
億泰も立ち直ったところで、私たちは港の方へ向かうのだった。
※
「そろそろ杜王港に到着ですよ……あと20分ほどで。」
船内の一室にて、SPW財団の男が室内のソファーに腰掛ける老人と窓辺にいる男にそう声をかける。
「歩く……のかね?ゴホ」
咳をしながら尋ねる老人は、先程から陸の方でも話されていたジョセフ・ジョースター。
「もちろんですよ。歩かなくては船は降りられませんよ、ミスタージョースター。」
SPW財団の男はそう言うと運ぶ荷物の確認をしている。
「……えと……わしの杖はどこか……知らんかね?ゴホ!ゴホ!」
「杖なら貴方のすぐ目の前ですよ。ジョースターさん。」
せき込むジョセフに窓辺に立つ男は丁寧な口調で言う。
深い緑色のコートに赤い髪。そう、彼は
「では、荷物の方は移動させておきますので、ミスタージョースターをお願いします、ミスター花京院。」
「ええ、任せてください。」
莉緒曰く、海外出張に行ったはずの花京院典明である。
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