不思議なイタリア料理店 [ 66/78 ]
「おい、億泰、千里……ヘルシー料理って健康を追求するあまり薬草とか使ってよぉー大抵マズイんだよな。もしちょっとでもマズかったらカネ払うこたあねーぜ、文句たれて出よーぜ!」
一体なにが来るかとうとうとしながら待っていると、仗助がこっそりと私たちに言った。たしかに、健康食品でこりすぎたものでおいしいものはあまりないけれど……
「仗助君、もしまずかったら私が奢ってあげるよ。」
会話が聞こえていたのか莉緒さんが微笑しながら仗助に言う。そう言えば、ここに来て最初に莉緒さんはここの料理はおいしいと言っていた。この人は別に味音痴だったりするわけじゃあないから多分大丈夫だろう。
「いや莉緒さんがそんなことしなくても……」
「いいのいいの。それにしても血が繋がっているというか……昔の承太郎思い出した。」
苦笑気味に莉緒さんが言う。そう言えば承太郎さん昔は不良だったけど……うん、あまり考えないでおこう。
「とにかく美味しいうえにいいこともあるから期待した方がいいよ」
直前に言っていたことをごまかしたいのか、何事もなかったように莉緒さんは笑顔で言う。まあそれはそれとして、いいこと……なんだろう。
「仗助、莉緒さんがそこまで言うなら不味いわけがないぜ!」
「……そうだな。」
莉緒さんがここまで進めてくることもあり、億泰も仗助も先程までの不信感とかそういう物はもう抱いていないみたいで、先程出された水を飲んでいた。
眠気覚ましにもなるから私も飲もうか……
「こっ!!こんなうまい水、おれ生まれてこのカタ飲んだことが!ね―――ぜぇ―――ッ!!」
そう思ってグラスに手を伸ばした矢先に、眠い中では刺激の少々強い大きな声が聞こえる。どうやら、億泰はこの水がとてもおいしかったみたいだ。といっても、水でこんなになるって……どういう事なんだろう。
「仗助も千里もそんな顔してねーで飲んでみろ!なんつーか気品に満ちた水っつーかたとえるとアルプスのハープを弾くお姫様が飲むような味っつーか、スゲーさわやかなんだよ……3日間砂漠をうろついて初めて飲む水っつーかよぉーっ」
一体どうしたのだろうと訝しげに私と仗助が見ていると億泰はそう、水を飲むように勧めてきた。
そこまで言われると、どれだけおいしいか気になるので億泰が水を一気飲みし、『ンまあーいっ!』と叫んでいる横で私たちも水を飲む。
「美味しい……」
「ほ……本当だぜッ!こりゃうまいッ!」
確かにおいしかった。一口だけじゃ足りないくらい、つい私も一気飲みしてしまうくらいに。一体どこの水?水道の水と何か比べちゃあいけないくらいに美味しい。
そう思っていると、
「な……なんかおれあまりのうまさで涙が出てきたぜ〜」
いつの間にか億泰が泣いていた。確かにおいしかったけれど、泣くほどの事だったか……仗助も水を飲んだぐれーで泣くことはないと言っている。
「あ、千里ちゃんちょっとこっち来てくれる?」
そんな様子を見て、莉緒さんが私に手招きしながら言った。話ならここで聞きますというとこっちに来てくれないとできないことだと言われ、なんの要件かは分からないけれど私は隣の莉緒さんの隣まで行った。
「なんですか、莉緒さ……あれ?」
一体何なのかと聞こうとした時、目から勝手に涙が出ているのがわかる。
なんで?水を飲んだくらいで本当に人は泣けるものなの?確かにおいしかったことは認めるけれど……
そう私が今流れ出ている涙をどうしたものかと困惑していると、莉緒さんはこの様子をやっぱりとでもいいたそうに見ていた。絶対何か知っている……後で問い詰めないと。
「うわあああ〜っ」
「おっ億泰ッ!」
そんな事考えているうちに後ろではもっとすごいことが起きているみたいで、億泰が一体どうしたのか気になり振り向こうとすると
「駄目だよ、千里ちゃん。」
と、腕を掴まれて莉緒さんに止められた。そして、気付けば私の涙が異常な量流れていた。まさに滝のようと言えばいいのか。今までにこんなに泣いたことなんてないってくらいに。
「な……なんだ?この涙はよぉ、どんどん流れてくるゥ〜」
「お……億泰!お……おまえの眼球……目ん玉白目のとこしぼんでフニャフニャだぞ〜ッ……ってことは千里、おめーもまさか―――ッ!?」
後ろから見ても、この涙の量なら見えるんだろうきっと。だってこれはあまりにも異常、現実的にはありえないって量。涙の量が私も以上だという事に気付き仗助は私の目も変なことになってないか見るために、私の肩をつかみ振り向かせようとした。
「ストップ、仗助君。」
莉緒さんが、仗助の手を払いのけた。
「何するんスか……莉緒さん」
「そんなに怖い目で見ないでよ。変な意味があってしたわけじゃないよ、ただ女の子の泣き顔を見るのは駄目ってだけで。」
慌てないで、待つってことも必要。そう莉緒さんは仗助に言うとにっこりとほほ笑んだ。
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