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不思議なイタリア料理店 [ 63/78 ]

『千里ちゃ〜ん……聞いてよ典明君がね……』


「すいません莉緒さん、もう切っていいですか」


『えーなんでー?』


今日も、いや昨日と言った方が正しいのか。莉緒さんから電話が来た。
内容は相変わらず、典明さんが電話してきてくれないとかいつものことから近くに面白い店が出来たとかまあ色々と。
別に莉緒さんの話が詰まらないという事はないのだけれど、今回ばかりはもう切りたくて仕方がなかった。


「もう空が明るいんですよ。」



なぜあの人はこんな長い時間話していて眠くなったりネタが尽いたりしないんだろう。





「眠い………」


案の定、授業中に寝てしまった。体育の授業だって半分寝ながら走っていたような気がする。幸いなことに今日バイトがないのがせめてもの救いだった。


「おい千里、もう帰る時間だぜ」


「うん……そうだね……」


半分意識はない状態で返事を返すと、仗助は私の肩を揺さぶる。けれど、ああ……だめだこの振動はむしろゆりかご的な感じで逆に眠気を誘う。


「すっげぇー眠そうだな千里。気持はわかるぜ」


隣のクラスからいつの間に来たのか億泰もいるらしい。でも今は眠くて仕方がない。寝ないで睡眠不足を解消する方法はないものなんだろうか。


「とりあえず起きろ、今日はバイトねェーんだろ。帰ってから寝ればいい」


「……わかった。帰ろう」


仗助に言われ、そっちのほうがちゃんと寝れると眠い頭で理解して鞄を持つ。
今日くらいは、ケータイの電源を切っておこうと思う。






「で、今日はどうしたんだよ。また莉緒さんか?」


「何ィ〜莉緒さんだとッ!?」


今日の授業に寝た分でなんとか起きていると、仗助に昨日は何があったのかと聞かれた。まあ、その通り莉緒さんの電話が今回の睡眠不足の原因だ。


「まあ、そんなところ……」


朝まで電話していたというと、仗助はよくそんなことできるなと逆に感心し、億泰は羨ましがっていた。

正直、変わってもいいよと思える。


そんなことを話ながら歩いていると億泰がなにか見つけたようで違う方へ行く。


「おい、こんなところにイタリア料理店ができてるぜ……いつの間にできたんだァ?」


億泰の見ている看板を見ると、イタリア料理Trussardiここ左折100m先と書いてある。
この先は確か霊園があっただけな気がするけれど、最近できた店なんだろうか。


「どこだよ」


看板を見ないでその辺を見回し仗助が言う。


「どこってこの先100mだよ看板にそーかいてあるぜ」


なぜ見回しておいて看板が見えないという事は突っ込んではいけないんだろうきっと。
仗助は億泰の指差す看板を見て


「この先?この先は霊園だぜ〜こんな商店街から離れたとこに店出して客なんて来んのかよ〜」


私と同意見のようだ。

「仗助〜その通好みっぽいとこが逆にそそるんじゃあねーかよお〜あっ!こりゃたまらん!ヨダレずびっ!〜ツウよーな味だぜェ〜っきっとおお〜おお〜っ!」


億泰はその店にどーしても行きたいといった感じに仗助と私に訴えかける。

「おめーこれから寄る気かよォおれハラすいてねーぜ〜、それに千里ももう限界そうだし」


仗助が私を見て言う。その前にこんな風に立ち止まって話している方がうつらうつらしそうで困る。


「おめーらはウラやましいよなあ〜美人のお袋さんや女子生徒の手料理と弁当が毎日食えてよォ〜
おれなんか自炊だもんなァ〜オヤジの世話もあるしよぉ」


億泰は羨ましそうに看板に寄り添って私たちに言う。
そんな風に言われたら嫌だなんて言えない。


「私はいいよ。行っても」

私が行くと言うと億泰はガッツポーズをする。本当に行きたいんだなイタリア料理……


「いいって、大丈夫か?千里」


「私、お菓子食べる、糖分、エネルギー……」


「日本語覚えたての外国人みたいな言葉しゃべんな……わかったよ、おれも付き合うよ!カネ持ってんのか?」

私と仗助二人が行くことになり、億泰は早足に道を行く。


「おれんち食ってくだけのカネはあんのよ、行こ行こしゅっぱぁ〜つ!」


子供か、といいたいくらいのはしゃぎ様を見ながら私は二人の後をゆっくりと歩いた。






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