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恋する美少女‐後日談‐ [ 62/78 ]

「相席して、いい?」


正直この言葉を言った時の心臓は早鐘を打っていた。

「別に、勝手にしたら」


「ありがとう。」


バイトが終わり、私は由花子さんと何かなんでもいいから色々話すために声をかけた。一発目から拒絶されたらどうしようもなかったけれど、そんなこともなく私は由花子さんの向かいの椅子に腰かけた。私もとりあえずコーヒーを注文した。


「……」

「………」


そして、いきなり困ったことになっていた。由花子さんとまず近づくことを考えていたせいで全くそこから何を話すかなんて考えてもいなかったからだ。


『主は本当に馬鹿だな、猪突猛進ってやつか』


ペンタクルスが小馬鹿にしたように言った事はまさに図星で、特に言い返すなんてことはできなかった。


「今の何?」


ああ、そう言えば由花子さんはスタンド使いなんだからペンタクルスの声が聞こえるんだった。だからってこんな言葉を聞かれるのも恥ずかしいような、なんというか。


「あ、あまり気にしないでくれると嬉しいというか……」


「そう。」苦笑してごまかすと由花子さんは一言返して会話が途切れた。

まずい、このまままたさっきのように沈黙が続いてしまう。


「あのね、由花子さん……」


「さん付けなんてしなくていいわ康一くんとかぶるから。千里」


「なら、由花子。あの……」


やっぱり話すことがいまいち思いつかない。話さなければいけないことはたくさんある。聞きたいことだって、でもこの話すべきことのうち何から切り出していけばいいのかが全く分からない。


「康一くんには何もしないわ。」


なかなか話を切り出さない私に、由花子ははっきりと言い放った。


「あなたの聞きたいことってそれでしょ。別にもうあんなことをする気はないわ」


理解できていないで固まっている私に、もう一度由花子は言った。とは言っても、私の聞きたいことはそこじゃあなくて……まあ仗助達にはこの言葉は伝えたほうがよさそうだけれど。


「由花子、私はそのことについて話したくて相席したわけじゃないよ。」


「そうなの。じゃあ何なのか話してくれない?早く」
私が言うと由花子はちょっと意外とでもいいたそうな顔をしていたけれど、また表情は先程のようにつまらなそうといったようになる。


「この前、なんで私には特に何もしなかったのか気になって」


いくつかあった気になったことの中でも一番気になっていたことを訊くと、由花子は考えるようにして口を閉ざす。


「初めは、あなたも嫌だったわ。康一くんに仲よさそうに近づいたり。でも何か違うからそのうちどうでもよくなったの、あなたの存在は。」


どうでもよくなった、って言うのは喜んでいいのか。敵視されたりしなかったんだから喜んでもいいんだろう多分。


「どうでもよくなった……?」


「恋をする女って感じじゃあないわ、あなたって。」


それは正解だ。恋するなんて今のところ完全に無縁、まだ考えの範疇にすらない。由花子の洞察力ってすごいなと思った。


そんなことを思っているうちに、由花子は席を立つ。もうコーヒーカップの中は空で、話すことももうないと言ったように。

とはいっても私としてはまだ訊きたいことはたくさんある。急いでコーヒーを飲みほし後に続いた。

「何で付いてくるのよ」


そう言われたのは、由花子に続いて喫茶店を出た時。何でと言われても、ついとしか言えない。キッと刺すように睨まれるとさすがにちょっと恐怖を感じる。


「こんな時間だから、送っていこうかと……」


夕方と言っても日が落ちるのなんて早い。暗い道を女の子が独り歩きなんかしていたら何があるかわからない。そう思って言うと、由花子は何を言っているんだとでも言いたげに私を見ていた。


「ほら、女の子がこんな時間に一人で歩くのは危険かな……って。」


「それを同じ女に言われたくないわね。それにあなた逆方向でしょ」


「………そう」


確かにそうだけれど。そう言われればそれ以外言う事もない。


「じゃあ、また学校で。気を付けてね。」


さっさと帰路に就く由花子の後ろ姿を見て、私が言うけれど、特に返事はなかった。


けれど


「千里もさっさと帰りなさい。危ないんでしょう」


由花子は一回振り返ってそう言ってくれた。


今度はもっと普通に話せるような気がして、明日また由花子に会えたらなと思った。




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