親子 [ 43/78 ]
「その『弓と矢』を渡しなよ……ブチ折っからよお〜」
仗助が渡すように手を差し出すと、彼はドアのほうに行く。
渡す、というつもりはないようだ。
「兄貴…もうやめようぜ……」
ドアの前に立っていたのは、億泰だった。驚くことに、兄にもうこんな事をやめようといっている。
「億泰……」
「おやじは治るかもしれねーなあ〜肉体は治んなくともよお〜心と記憶は昔の父さんに戻るかもなあ〜〜」
彼は、彼なりに答えを決めたんだろう。兄に逆らってまで。
「どけェ〜っ億泰〜〜っ俺は何があろうと後戻りすることはできねぇんだよ……
スタンド能力のあるやつを見つけるために、この『弓と矢』でこの町の人間を何人も殺しちまってんだからなあ〜
それに、俺はすでにてめーを弟だとは思っちゃあいない!弟じゃあねーからちゅうちょせずてめーを殺せるんだぜーっ」
そう言われても、億泰は退かない。
ここで退けば、何も変わらないから。それこそ、本当に後戻りができなくなってしまうから。
そんな時、上から何かの気配を感じた。
仗助も上を見た、ということは本当に何かいるのか…
「おめーらよ――このおやじの他にまだ身内が誰かいるのかよッ!?」
「身内?おれたちは三人家族……」
そう言った億泰の真後ろにあったコンセントが何かおかしい事に気付く。
なにかスパーク……火花が散っている。
そしてその電気はそのまま人の形を取り……
「コ・・・コンセントの中から……」
「億泰ゥーッ!ボケッとしてんじゃあねーぞッ!」
一瞬の出来事だった。
弓と矢を持っていた億泰から『弓と矢』を奪ったかと思うと殴り飛ばす。
そして、コンセントから出てきたものの手に腹部を貫かれていた。
「ガフッ」
「あっ!兄貴ィッ!」
『この「弓と矢」はおれがいただくぜ……利用させてもらうよ〜〜っ
虹村形兆ッ!あんたにこの「矢」でつらぬかれてスタンドの才能を引き出されたこのおれがなーっ』
スタンド、と言っているということはこいつはスタンドなんだろう。多分、さっきの上にいたやつの。
「き…きさまッ!きさまごときがこの『弓と矢』を…うぐぐぐぐぐ」
『虹村形兆、スタンドは精神力と言ったな…おれは成長したんだよ!
それとも我がスタンド「レッド・ホット・チリペッパー」こんなに成長するとは思わなかったかい?』
形兆はバッド・カンパニーを出して応戦しようとするも、完全に主導権はレッド・ホット・チリペッパーの物になっていた。
「で、電気だッ!お…億泰の兄さんが…電気になっていくッ!『弓と矢』までッ!」
まさにその言葉の通りだった。電気と一体化、というべきかどんどんコンセントに引き込まれていっているように見える。
「兄貴ィ――ッ」
億泰はそんな形兆を救おうと手を差し伸べようとした。
「俺に触るんじゃあねえッ!億泰、おめーも!ひ…引きずり込まれる…ぜッ!」
バリバリと耳障りな音がするたび形兆はコンセントの中に吸い込まれる。
この場にいる全員、彼を救うことはできない。ただ、見ていることしか…できなかった。
「くっくそお〜〜〜ゆ…『弓と矢』がとられちまう…ぜ…億泰…おめ…はよおーいつだって俺の足手まといだったぜ…」
その言葉が終わったと同時に、形兆は完全にコンセントの中に消えてしまった。
「兄貴ィ――ッ」
億泰の叫びが家の中に響いた。
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