旅立ちの日 [ 2/78 ]
『どんな困難だって怖くない。』
その人は世界を越えて恋をした。
『だからね、もし千里ちゃんが恋をするときは、何があっても諦めないで欲しい。』
その人はすべての運命を変えた。
私はこの人に強い憧れをもっていた。
エジプトにいった話は何度も聞いた。
迫りくる敵、危機的状況下、愛する人や大切な仲間を命をかけて守った、まるで作り話のようで本当の話。
私もいつか、この人みたいに強くなりたい。
この人とはちがって私は平平凡凡な人間で、それに見合った人生を送っているけど、
私はこの人に憧れていた。
この、莉緒という人間に。
当時は、すごく。
時は流れ私も今や15歳、高校入学のためこれから引越しをする。
荷物ももう向こうにいき、親との別れも済み、家を出ようとしたところで
「千里ちゃん!!いやー!行かないで!!」
「ああ、もううっとおしい!!子供ですかあなたは!」
つかまった。
家から出てきたと同時に抱きつかれる。
彼女は花京院莉緒、
私の家の近所に住んでいて…
昔、とても憧れていた人。
「引っ越すなら何でもっと先に行ってくれないの?私今日知ったよ!?」
ああ、何故ばれた。
この人にばれたらこんな面倒な展開になると知っていたからこそ、この人には黙っていたのに。
「千里ちゃんが居なくなったら私はどう生きて行けって言うの!」
「あなたには典明さんいるでしょ!私が引っ越すくらいで駄々をこねないでください!」
この駄々をこねる大人、見た目や中身は誰がどう見ても18、19程度だけど、今年で28歳である。
三十路近いくせに落ち着き、とかそういうものは全然持ち合わせていない。
十年前に私は彼女と出会った。
とても私のことを大切にしてくれるんだけれど…
「高校なら、近くにしたって言ったのに!だましたの!?」
過保護だ。
この人はなぜか私に対して過保護だ。
自分の娘にはそこまで過保護なわけじゃないのに。
「だましたとか言わないでください!
てか、はやくいかないといけないんで離してください」
時間を見ると、9時半。
まずい、新幹線に乗り遅れる。
「いや。」
「いやじゃない。」
[*prev] [next#]