サインを求めて [ 7/78 ]
と、これが昨日の出来事。
サイン色紙二枚持って玄関前に居る。
なんやかんやで私もサインがほしかったりする。
岸辺と書かれた表札。
インターホンを押す。
「…?」
誰も出てこないので二回目。
「…あれ?」
外出?
もう一度確認のためインターホンに手を伸ばした。
「何回押すつもりだ。」
「…っ!」
反射的に手を振りほどき引っ込めた。
いきなり手を掴まれて、何事かと思った。
「えっと、仕事中でしたか?」
「……。」
「ど、どうかしましたか?」
「いや、仕事はもう終わったところだ。」
私の顔を見て一瞬固まっていた。
…ね、寝癖とかついていた?
まあそれはいいとして、まちがいない、この人は岸辺露伴だ。
莉緒さんが新年号の表紙を見せてきたから覚えている。
いや、その前に…
すごく不機嫌そうでした。
どうしよう、この状態でサインください!なんて言えない。
「君は何だ?いたずらか何かなら帰ってくれ」
「えっと、サインください。」
ここでいたずらとかと思われたら少しマズイ。
正直に言うべきだ。言いにくくてもサインくださいって。
「サイン…?ってことは君は僕のファンってことか?」
「は、はい。」
ファン、ということを肯定すると露伴先生の不機嫌そうな態度が消えた。
「……」
その時だった、露伴先生が私に何かを目の前に掲げた。
「え、それ…」
生原稿?
そう思ったと同時に意識は遠のいて
※
「…ん、あれ?」
いつのまにか、ソファーの上。
寝ていた?
「気がついたようだな。」
「え?露伴先生?」
えっと、たしか…露伴先生にサインをもらいに来て…
あれ…?ここから記憶がない。
「…何があったんでしょう」
「こっちのほうが聞きたい、来て早々に君は倒れたんだ。貧血か?」
「あ、サインください」
「…とことんマイペースだな」
そう言えばもらっていないと思いだして、サイン色紙を渡す。
「千里と莉緒でそれぞれお願いします」
※
サインをもらって帰り道。
「露伴先生っていい人なんだな。」
ファンとか言っても見ず知らずの人を目の前で倒れたからって、家に上げてまで看病するなんて。
そう、勘違いしながら私は帰るのだった。
※
(三者視点)
「…また能力を使ってしまった。」
それはある意味無意識の行動。
波長が合うかわからないうちについ、千里には能力を使ってしまった。
「だが、あんなにすぐに効いたのは想定外だった。
それに…この記憶」
露伴が持つのは千里の記憶の一部、莉緒から聞いた冒険の話の記憶。
「…本当に体験したと思われる莉緒という女…そいつにこの能力を使えば」
傑作が描ける。
そう思っていた。
そのために、千里に近づく。
「…『岸辺露伴の家に通うようになる』これを書いたのは正解だった。」
つい能力を使ってしまったこと、それはいったいなぜなのか、それはわからないまま岸辺露伴は千里から取った記憶を何度も読み返し、
描きたいという衝動にかきたてられながらまた続きを書くのだった。
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