-->避けろ!助けろ! | ナノ
▼26 本日、ひとつの決意
『一人に…しないで』
あれからまたたったみたいで、夢の中の私も今の私も大差変わりなかった。
夢の中の私、過去の私は病室で一人になるといつも泣いてそんなことを言っていた。
一人にしないで、と。
両親が死んでなおここに居るのは、遺産が全部私の治療費になったかららしい。
毎日そんな風に過ごしていたある日、私は医師に呼ばれた。
何か進展があったのか?
いや、医師は暗い顔をしている。
これ以上のことは、もう予想がついていた。
『言いにくいことですが…
あなたの余命はもう1年もありません。』
過去の私はそれを聞いて、驚きも泣きもしなかった。
もう、それくらいわかっていたんだ。
子供じゃないんだもの、こんな病室にずっと居て、学校にもそれどころか外にもあまり出ない私が重病じゃないわけないもの。
病室に戻ると、私はいつもの通り、マンガを読む。
本とかも時々読むけれど、大抵マンガ…ジョジョを読んでいた。
『こんな風に旅してみたかったな』
不思議な能力とかを持って、誰かのために闘ったり、誰かを助けたり。
子供っぽいって笑われるかもしれないけど。
いつか、元気になることができたら家族や、これから会う友達ってやつといろんなものを見たりしたい。
恋だってしてみたかった。
もうかなうことのない夢。
ここで、私は死を待つのみ?
でも、ならどうして今の私は元気なのだろう?
そんなことを考えていた時
『あと、5、6カ月ってところね。』
青い蝶が私の聞き覚えのある声で話しかけていた。
『綾川莉緒、あってるわね?』
普通の大きさの青い蝶だけど、これはスカイ・カップだ。
『うん、そうだけどあなたは?』
『あら、蝶が話しても驚かないなんて珍しい子ね』
そうスカイ・カップが言うと過去の私は、このくらいじゃ驚かないよ、という。
『私はいわゆるこの世界の神の使いってやつよ。』
神の使い?また非現実的な…
『そんな神の使いがなんのよう?あの世に行く準備でもしろって?』
そう言うと、違うと否定される。
『神の愛は常に平等って言葉知ってるかしら?
幸運は常にこの世界では平等にってこの世界に神は言ってるの。』
その言葉に、私はどこが平等よ、と毒づいた。
『話は最後まで聞きなさい?
でも、いくら気にかけようともバランスは崩れやすいの。他の世界の神なら普通そんなこと気にしないんだけど、
この世界の神は違う、貴女みたいに不幸になってしまった人にも平等に幸運を分けようとしている。
そこで、神は人よりも不幸になってしまった人には救済措置として死の数か月前に使いを送って願いを何でも一つかなえることにしたの。
ここまで大丈夫?』
『つまり、私の願いをかなえてくれるってことでしょ?』
そう言うと、物分かりがいいわねとスカイ・カップは言った。
この世界は、ってことは他にも世界があるってことだろう。
私の世界の神は救済システムを作るほどお節介らしい。
『まあ、この世界に生まれたからこその特権ね。
他の世界の神ならここまでしないわ。
先に言うけど、不老不死っていう願いはだめよ?世界全体のバランスが崩れかねない願いだから。』
でも、それ以外の願いならどんな願いであろうと満足のいくように叶える、と言った。
『質問はあるかしら?』
『…もし、願いがかなって満足だと思ったら?』
『もちろん、あの世に行ってもらうわ。
じゃあ、次はあなたの死の直前に来るわ。
その時まで願い事をじっくり考えなさい。』
そう言って、スカイ・カップは去って行った。
『一つだけ…なんでも』
死の直前まで待たなくたって、もう私の願いは決まっていた。
※
…目が覚めてから、気分はずっと落ち込んでいた。
多分、この後私は願いを叶えてもらった。
だから、満足するまでしかこの世界に居ることはできない。きっと、この旅の終わりまで。
満足の度合いって何?もしもヘタに満足したら本当の目的も果たせないまま強制送還、なんてことも?
…そんなこと、あっちゃいけない。
でも、どうしたら?
そんな答えの出るわけない自問自答を続けながらも、ずっと上の空になっていた。
「おい…もう陽がくれるぞ」
答えのない考え事をしている時ほど、時間の流れる速度は早い。
…陽が暮れた?
ふと、今ここに居るメンバーを見る。
イギーが居ない。
乞食にDIOの館を探すように頼んで…
ってことはこれは、あのペットショップ戦。
ここまで考えたときには体は勝手に走りだしていた。
みんながどこに行くのかという声も無視して。
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