死人に頼まれたのは、これまたとんでもないことだった。





「兄貴今日は顔色悪いっスよ、どうかしたんですか」





「……見てわかんねーか?」





「見て……?」





「だから、貴方以外には見えない。」





アジトのリビングに行くと数人居たのだが、

こんな風に、プロシュートのすぐそばにいるジュンに気付くものは誰一人としていなかった。



気配すらも。



本当に幽霊だと信じるしか無くなり、アジトを出る。



「ところで、お名前は?」





「……プロシュート。先に言っておくが、俺は多分お前の嫌いな人種だ。」





「嫌いな人種?」





ジュンが首をかしげる。

殺されたというならば、プロシュートの職業は確実に忌み嫌うだろうと思っていた。





「俺の職業は、お前の同業者でも何でもない……ギャングだ」





「ギャング……、はあ、嫌いな人種というわけでも」





「アホか、殺しに関わっていたりするんだぞ?お前を殺した奴だって」





「私を殺した人に、ギャングは多分関係無いはず……ギャングに恨まれるようなこともしてない。それに、プロシュートが私を殺したわけでもないから。」




そう言って、ジュンは否定すると話を続けた。


「私は、何回か言ったけれど生前所謂芸術家をしてました。主に、絵画ですかね……。そして、ある日急に夜道を歩いていたらはねられたんです。車に。」


「それ、ただの事故じゃあねーのか?」


「意図的だった。」


「……何でわかる?そんなこと」


「車を運転していた人が、倒れている私を見て、ニヤッと笑っていたから。」


それを聞いて、プロシュートはあの日見た夢を思い出した。
車にはねられた、妙にリアルなあの夢。

偶然にしては、おかしい。


「そいつの顔は覚えてんのか?」


「……思い出そうとしても、笑っていたのは覚えているけど…顔にはどうしてももやみたいなのがかかっていて。」


「話にならねェな。」


女を殺すことを楽しんでいる男はごまんといる。
それなのに、それだけの情報で犯人を見つけてほしいなどとは無理がある。

もし、頼んだ相手が 普通の人間だったなら。


「だいたい、見つけてどうするんだ?取り憑いたりでもするのか」


「それはない、です。ただ」


「ただ?」


「私をそうやって殺したのが殺人による快楽目的なら、同じような被害者を出したくない。」


そういうジュンの目はとても真っ直ぐなものだった。
所謂、鬱蒼としたイメージのある幽霊とはかけ離れた、しっかりとした理由のある。


「と、いうか……見つからない限り私、貴方に憑くしかないんだけど…。」

「それは困る。」

「即答するなら、見つけてもらえ…ない?」


なんと理不尽な。とはいえ、彼女も彼女で必至なようだ。


「プロシュート以外には、頼る人もいないから。運命だと思って諦めて。」

「そこで運命って言葉はないだろ……」


呆れながら言うプロシュートだが、言ってる本人はまじめそのもののようだ。
こんな事件をもし普通のものが聞いたなら、解決しなくてはと思うか、変なことにかかわるのは嫌だと思うかだが、ここまで不明事項の多いことならば解決までたどり着くのは無理といったところだろう。

だが、一般ではない。イタリアのギャング組織の上層部にいる者ならば、この事件について調べるのも難しいことではない。
つまり、運命、という言葉はあながち間違いでもないのかもしれない。
そういう意味で彼女が使ったわけはまずないが。



  






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