幽霊とは言っても、先ほど紙に触れたりすることができるということもあり、ジュンは車に乗ることもできた。幽霊といってもワープができたりなどという便利なことができるわけでもないらしく、移動は他力本願なところもあるみたいだ。

ジュンの指示通りにプロシュートは車を走らせ、数十分も経たないうちに郊外の方へ出る。そこに、白い壁の家はあった。

「ここか?」

ジュンが頷くと、車を止めて車から降りる。
ドアも開けずにジュンは下りると家の方に走っていく。この様子だと、幽霊として徘徊するようになってから家に帰ったことはないみたいだ。

その後にプロシュートもついて行く。幽霊に壁の概念ドアの概念が無いとしても、人間にはあるわけで、ドアには鍵が掛かっているものだ。
案の定、ドアは開かない。

そう思い駄目もとでノブに手をかけるが、


「………?」


ジュンが開けて行ったのか、それとももとから開いていたのか、鍵はかかっていなかった。
いつ死んだのかはまだ特定できていないが、家の中の小奇麗さからすれば、確実に前者であろう。

家に入ってすぐ、壁に飾られている絵画に目が行った。形容しがたい、紫と青のコントラストが印象的な絵。抽象画、とでも言うべきか。しかしそれ以外は何もない廊下。そして、そこから部屋に続くと思われるドアは二つあった。

一つはドアが開いていないため何の部屋かは分からない。そのためもう一つの部屋に向かう。

開いているドアの向こうの部屋にジュンはいなかった。
使われていないキッチン、ダイニングキッチンと本来リビングとなる部屋に大量の紙と画材の山が落ちている。書きかけで没にされたらしき物が大量に放置されていた。リビングにしては、いように広い部屋であるが。

事故からそのままなのか、家に誰の気配もないところから身寄りはないようにも思える。


さて、この部屋に居ないとすればと先程から目に入っていた階段を上がる。リビングにそのまま階段が置いてあるとはまた変な構造をしていると思いながら登りきると、そこにはドアが無く、そのまま部屋にはいれるようになっていた。


二階。部屋は一室のみ。あまりに広い空間、天井はガラス張りになっていて太陽の光が差し込んでいる。
リビングとは打って変わって、何も置いていない部屋。

中心にはイーゼルがぽつんと置いてあるだけだ。


そして、何よりも、この部屋の自体が一つの絵であった。


元は白かったであろう床と壁に壁画のごとく月夜に太陽、空が描かれている。先程の抽象画とは違い、何を描いてあるのかが誰でも一目でわかる。なにより、絵に対して特に関心のないプロシュートだが、こんなに綺麗な絵を描くやつだったのかとつい思うほどであった。


「何一つ、変わってない」


「そうか」


イーゼルのすぐ横に、ジュンはいた。そして、その場でぽつりと呟いた。


「描きたいものが、たくさんあった。」


イーゼルの上に置かれたキャンバスには、何かの絵が描かれている。中途半端に途切れた絵。


「でも、この体じゃ、もう描けない」


そこで初めて、ジュンの感情が露わになった。
なによりも、この場所が大切であった。自分の世界を描けなくなってしまったことの苦しみ。


幽霊も、泣くのだと。




 






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