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『パチッ、パチッ』


爪切りで切るたび音がする。

人の爪なんて切ったことがないから、少し怖い。

深爪にならないよう、でもあまり残さないよう。


「……」


「……」


でも、何だろうこの静寂気まずい、すごく。


それより、変に距離が近い。


そして、ときより


「ふふふ…」


吉良さんが怪しく笑うのがとんでもなくこわかった。


「うまいじゃあないか、未來」


「褒められてもうれしくないですよ、これ」


はぁ、とため息をついて爪切りを持ってゴミ箱を探そうとしたけれど、吉良さんがそれは自分がやると爪切りを持って行ってしまった。


…てかこの部屋にゴミ箱ないの?違う部屋に行っちゃったけれど。



「…それにしても、きれいな部屋だな。」


純和風、といった感じの家は何となく落ち着くな。


家主があの人じゃなければだけど。


「……この家に一人暮らし…だっけ?」

十数年前に会ったのは、たぶんお葬式だったかもしれない。

たぶんっていうのは、会った人の顔とかをよく覚えていなかったから。

親戚づきあいがそんなになかったから、よくわからなかったんだ。それに幼かったし。

従兄って言っても十数年ほどは会った事がない。初めに会ったときに向こうも私が従妹ってわからなかったくらいなんだし、よくよく考えれば親戚(認めたくないけれど)だけど全然知らない。


家も近いとしても全然、お互い知らないまま十数年を過ごしていた。


…まあ、この状況下になったことを考えると会わなくってよかったかもしてない。


「未來」


でも、少し、ほんの少しだけ


「未來、」


楽しいかもしれな


「聞こえてないようなら食べてもいいかな?「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ楽しくない楽しくなんかないッ!!」君のどこからそんな声が出るんだか…」


耳元でささやかれてあまりに驚き絶叫をしてしまった。


前言撤回楽しくない。


まだ鳥肌が立っている。


「吉良さん!居たなら言ってください!いや、耳元で言わないでください!いや、その前に食べちゃう、は冗談に聞こえません!!」


「何回か君の名前を呼んだが、君が上の空だったじゃあないか」


「……う、すいません」


考え事をしていたら、周りが見えなくなるっていうのになっていたみたいだ。


「昼は食べていくね?」


「昼…?えっとそれはどういう」


まさか、吉良さんが作っちゃうとか?

いやいやまさか


「もちろん私が作るが」


「…まじですか」


作れるとかそういう話じゃなくて、まさかここでこんな展開になるとは。


「あ、今度は何も盛らないから安心してくれて…」


「だからそう言われると安心できないですよ!!」


「すぐに用意する…あぁ、そこの紙袋なんだが気にしないでくれ」


そこの紙袋…ああ、ス●バの


いや、なんでいちいち言うんだ。






…吉良さんが昼食を作りに行って数分。

気にするなと言われるときになる人の習性はもうどうかと思う。


気になってよく袋の外を見ると、紙袋に赤いような黒いようなシミみたいなものがあるような気がするし。


なんだろう、中に何かこぼしたのか


それともよっぽどまずいものが入ってたり。いや、こっちについては考えたくない。


たぶん、ジャム系の何かをこぼしたんだよね。


………


だとしたらなんで捨てないんだろう。


気にしないでより何より、捨てておいてにならないのか。



……早く吉良さん来ないかな。

気になって気になって、仕方がない。


「少しなら…」


紙袋に手を伸ばす。

テープが二つ張ってある。

…ここまでしてるのに気にしなくていいっていうのはどうかと思う。


「この間から…」


美味い感じにテープとテープの間を見る。



そして、見なければよかったと後悔した。



「……手」


袋を持ったまま唖然、いや、ちょっと理解が遅れていた。


もしかしてマネキン、吉良さんが私を驚かせようとしているだけ


そんな淡い思い。

でも、血の気のない白い感じ、酸化して黒ずみはじめている血、本物だと思った。


「やはり見たか。」


「見てしまいましたよ。」


たぶん声は震えていたと思う。


ただの変態で、従兄で、


でも、きっと、こんなことはしているかもしれないとは思っていた。


だって、この人の手への執着は異常だから。



「吉良さん、これ本物ですよね」


「彼女は本物だ、とても美しい手でね…まあ、君には劣るけれど。

丁度今日手を切るところだった」


やっぱり、本物。


この口ぶりからして、この人は何回かこんなことをしている。

不思議とそこまでの恐怖はなかった


「彼女…彼女さんとはいつ」


「君と出会う前日かな。君と会ってからは、君のことしか考えられなくなっていたから彼女には悪いことをしたと思っているよ。」


袋の中の吉良さんの彼女は綺麗なネイルアートをしていて、指輪もはめていた。

元々持っていたもの…?

それとも…


ああ、私はおかしくなってしまったのかな

こんな目にあって、恐怖より好奇心が上回ってる。


今私が、殺されてしまうのか。そんなことよりもなぜこうしたのか、とかのほうがよっぽど気になるんだ。





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