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私にとっては過去の出来事だ | ナノ
entrante
その日は、酷く重く苦しい心で始まった。
「朝……」
時刻を見ると、まだ早朝と言える時間で。
カタカタというキーボードをたたく音や、何かを書くペンが走る音がしないのがとても寂しく思えた。
昨日どれくらいに寝たっけ?そんな考えがよぎる。
康一はまだ起きていないようで、部屋はしんと静まり返っている。
約束の時間は昼3時。当分まだまだ。
けれど、一人で物事を考えたくなって、『約束があるので外に出ます。夜には帰ります』と置手紙をし、ライターをまたソードの口の中に入れて外に出た。
早朝のイタリアは肌寒く、人通りも少ない。
ホテルからジョルノの学校への道は覚えている。
今は、どうしても、一人でいたかった。
『ディオ・ブランドー』、かつてジョースターの血族を苦しめ、由紀の両親をも苦しめたもの。
齢120の金の髪をした吸血鬼。そう由紀は聞いていた。そして、両親たちによって倒されたと。
お伽噺のような勧善懲悪なお話。
悪い吸血鬼は倒されて、めでたしめでたし。
そう、思っていた。その話を聞いた頃には。
「………」
父親が居ない。
ジョルノのギャングスターを目指す理由を、由紀は聞いていた。
もちろん、うわべだけだが家庭事情も。
深い家庭事情まではわからない。けれど、由紀は思う。
本当に、あの話が勧善懲悪なのか。
本当に勧善懲悪なら、悪いお父さんのもとで育たなくて良かったね。
なんて話だが、
彼にとってもし、いい父親になりえたのなら
それは、謝っても謝りきれない罪。
けれど、謝る事が出来るのは自分ではない。
自分にできるのは、ただその話をするかしないかだけだ。
謝るということは、その当事者にしか出来ないわけであり、血のつながりがあろうが無かろうが、無関係なのだから。
「あ、れ?」
そんな事を考えているうちに、見たことない風景の場所についてしまう。
見たこともないもなにも、基本的にこのあたりの地理はわかっていないのだから仕方ないのだが。
人通りも少ない事もあって、これではまずいと、とにかく人を探すように歩きまわる。
人と会ったら、憶えているホテルの名前を連呼してれば何とかなるだろうという考えで。
そうして、数分かすると小綺麗な建物に着く。
見るからにして、教会といった感じの建物だ。
「こういうとこの人って朝早いよね?」
それに、教会ならば多分親切な人且つ迷子には優しいはずだと思う。
助かったと思いながら、建物に入る前に周りを見る。
「――――ッ!?」
そして目を疑った。
教会は、街中にあり他の建物とは少し間隔をおいて建っている。
だからこそ、その異様な人物に気付いてしまったのだ。
「………な、なに、えっ!?」
メローネと、同等か。
その服はそれくらい異様な服だった。穴だらけって。
頭の中の日本語がどんどんおかしくなるのを由紀は感じながら、つい声を上げてしまうと、
その人物はびくっとして由紀の方を見たので、ばっちりと目が合ってしまう。
「あ……あの、ぼ、ぼくは」
「えっ」
言葉が通じてしまったという事は、相手はスタンド使いなのか。
そう思った時には
「あやしいものでも、なんでもないのでッ!」
そんな捨て台詞を吐いて走り去っていってしまった。
たしかに、教会の方を見ていた。
でもそれだけだ。教会が綺麗だったからとかそういうのかもしれない。
服装は……海外だ、色々ある。
そう思いこむことにしたが、惜しい事をした。
服装以外はまともそうなので、せっかく言葉が通じるのであればホテルではなく、ジョルノの学校の場所を聞けばよかったと。
「仕方ない、か。」
はぁ、とため息をついて教会に入るべく踵を返す。
「いかが、なさいましたか?」
振り向きざまに、目の前に居たのは、修道服を身にまとった所謂シスターだった。
甘く済み透った高い声に、ブロンドの髪。白い肌。
一瞬、夢でも見ているんじゃないかとすら思えた。
「あの?どこかお身体が……」
「は、はいいい!!!」
額に手を当てられる事よりも、それにより距離が近くなったことでその人物の相貌がはっきりしてしまい、慌てる。
女ですら、このような反応をするくらいに綺麗だったのだ、その人は。
「それならよかった。ところで、なにかご用でもありましたか?」
「あ、あの、ネアポリス中・高等学校に知り合いが居るのですが、迷ってしまって」
「学校に!奇遇ですね、私もこれからそこに行く用事があるのでご一緒にいきませんか?」
両の手を合わせて、彼女は由紀を見てにっこりと零れる笑顔は誰もが信頼を置くような、そんな笑顔で。
少し怖くなってしまう。こんな人間が居る物なのかと。
ぜひお願いしますと頭を下げると、彼女はこちらですと歩み始める。
「私はリコッタ。この教会で見習いをしています。」
「わ、私は由紀です。え、えっと、旅行客というか、えっと」
ギャング見習いです!とは流石にシスターに言えない。
慌てていると、リコッタは無理にお話しにならなくても大丈夫ですよ、とまた柔らかい笑顔と共に言葉を返す。
「ただ、折角の縁ですから少しお話しながら歩きたかっただけです」
ふ、と。教会の懺悔室で告白してしまう気持ちが、とてもわかった。
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