-->私にとっては過去の出来事だ | ナノ

序章の終わり



まるでそこは映画館のようだった。

「……ぁ、あぁ」


映画館のような6つのスクリーンが四方を囲み、その真ん中に三つの椅子。
そこに三人は座っていた。


6つのスクリーンは映し出された映像は全て無音で別物ではあるが、どれも死体を映している。

それは、つい先ほどまで話し、暮らしていたあの6人である。

蜂の巣のような死体、喉の貫通した死体、片手など欠損のみられる死体、バラバラになった死体、どろどろに溶け切ってしまった状態。

それは、つい先ほどまで日常を過ごしていた6人である。


それから、目をそむけることはできなかった。
目をそむけることは、彼らの行いを否定してしまう行為につながるからだ。

三人、それから目をそむけず、ただ見ていた。

映像が死体を映し止まったかと思うと、周りが明るくなる。
手をたたく、乾いた音と共に目の前に一人の女性が現れた。

黒いポニーテール、黒いセーラーワンピース、赤い目。
年齢は由紀よりも少し上といったところか。


「二年後の復讐劇、ってところかしらテーマは」


面白そうに言う女性の声は、聞きおぼえがある。

なによりも、この状況が一体何なのか三人はわかっていない。
確か、三人はアジトから逃げようとキッチンの裏手から出たところを、謎の地面のぬかるみに足を取られたはずであった。

そのままブラックアウトしていく視界に、確かに彼女の声は聞こえたのだ。

『ゲームオーバー』

その声が聞こえたかと思うと三人はここに居た。
ここで、座ってスクリーンの映像は始まった。

戦い、敗れるチームの者たちの映像が。


「……あんた、何者だ」


あまりの現実味のなさに、ここがまるで夢の中に感じるがそんなことはないと本能が告げている。
ここは、夢などではなく事実本当に起きていることなのだと。


「何者か、と言われると困るわね。強いて言うならば管理者とでもいうところかしら」


パチン、と彼女が指を鳴らすとそこは由紀のよく知る風景になる。

あの時のように霧は出ていない。2か月前まで当たり前のように毎日通っていた通学路に。

「ここ、日本!?」

「ええ、そう。あなたが当たり前の日常を過ごしていた2007年の日本、東京よ」

由紀の服は、先ほどと同じワンピースだ。そのため春の陽気には少々肌寒い。
スグ横に足に当たったのは通学かばんで、それに気づいてから携帯を取り出す。

携帯のディスプレイは2007年の4月、時刻は8時を指している。
1時間30分。たった1時間30分しか経っていないのだ。

確かに、2か月の時を過ごしたというのに。


「日、本……?」

「それより、管理者って何さ?神様とでも言いたいのか?」


ここが日本だということにただ驚愕する由紀とソルベに、ジェラートは管理者と名乗った女性に問う。


「神様、とはずいぶん違うわ。好き勝手できるわけじゃあないの。
この世界が箱庭だとして、私はその中の物を好きに取り出したりねじ込んだりできる。ただそれだけ。
その時のちょっとした手違いで、そこの由紀をあなたたちの居たイタリア、1999年のイタリアにねじ込んでしまったってわけ。ちょっとおもしろかったから観測していたけれど、そこで殺されてしまうのは困るから急いでそっくりなプログラムを置いて回収したわけだけど。」

つまりは、完全に好き勝手できるわけではないゆえに彼女は神様ではないらしい。
それ故にあくまで、管理者。

「そ、つまりはその回収も俺たちまで巻き込んで失敗したってわけだ。」

「正解よ。貴方みたいな人は話が早くて良いわ。
そう、二人は特に干渉するつもりはなかったけれど近くに居たことで間違えてしまったの。
まあ、あの場に居ても殺されるだけだし、この世界で生きていくのもいいんじゃあない?向こうに戻せと言われても過去に帰るには私の能力は不安定なの。
こちらに来る時よりもラグが出るわ。」


この一時間が、そのラグというやつらしい。
帰ることは可能。
だが、殺されるとわかって誰が戻るというのか。
ラグがあって、先ほどの映像よりも後の過去に行ってしまったら。

何も変わらない。この管理者とまた会えるという確証もない。



「……まあいいわ。私、今日はこの辺に居るつもりでいるの。」


どうするのかの沈黙。
管理者はそう言うと歩いていく。
その先には確か公園があったのを由紀は知っている。


春の風が、寒い。

いつまでもここに居るというわけにはいかない。

「あの、よかったら、うちに来て考えない?」


頭の整理は全く付いていない。
だからこそ、現状を把握するために二人と話し合う必要があると踏んだ由紀は二人の手を引く。

ここが、あの一時間後なら、

死んだはずのこの二人をあの二人と思ってくれる人はいないかもしれないけれど、ここは由紀を由紀として迎えてくれるのだから。





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