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私にとっては過去の出来事だ | ナノ
bisbetico
はっ、あまりにも急に自己紹介なんてしたら変だと思われたかもしれない。
というか、変だと思う。
「…?はい。僕は…汐華初流乃といいます。」
「初流乃君!うわー久しぶりに日本人に会えてうれしい!!」
「そうですか。そんなに嬉しかったなら、なんかよかったです。」
こんなにテンション上げて喜んでいる私に、初流乃君はいやな顔せず少し笑いながら返してくれる。
なんでもないような事が、幸せだったと思うとはこの事なのね。
初流乃君は、この近くの学校の中学生。寮で暮らしているらしい。
日本には小さい頃に居たらしく、日本人と会うのも久しぶりらしい。
小さい頃に居てイタリア語も日本語もしゃべれるって言うのはすごいと思う。
「そっか、中学かぁ」
そういえば、中学校。
ずいぶん経って勉強内容とか着いていけるかよくよく考えたら大丈夫かとか心配もあった。
こういうことを考えられない状況に居るのだから仕方ないのだけれど、帰る事を考えるなら、そう言うことも考えていかなければ。
「由紀は、夏休みでイタリアに?」
「うん。そうなんだー。」
嘘をついた。
けれど、仕方ない。
本当に全く知らない人に未来から来ました!はどうかと思う。
「オイ」
なぜか、日差しの強さが弱くなった気がした。
空間が、なぜかひんやりとした気がした。
別に何か悪い事をしたわけじゃない。
なのに
「ギアッ」
「そいつは何だ?知り合いか?知り合いのわけねーよな、ここにオメーの知り合いなんていねーんだからよ」
一息で言われる。
何故?何故、ギアッチョは怒っているんだろう。
表情は無表情に近い。けれど、声色と態度で怒っていのは一目瞭然だ。
「つか、さっさと帰るぞ」
「あ、痛っ」
掴まれて引かれた腕は痛くて。
なんで怒っているのかは全く分からなくて。
ギアッチョが怒っているのは、私のせいだってわかっている。
わかっているのに理由はわからない。
そんなに話して、待たせてしまったのか。
「あの、彼女嫌がってるじゃあないですか。知り合いか友人かは存じませんが、どうかと思いますよ」
「アァ?テメーには関係ねえよッ」
「ギアッチョ!!」
最初に会った時の事を思い出した。
今二人の会話の内容は全く分からなかったけれど、多分このままいくとギアッチョは初流乃君に暴力を振る。
だから、逆に腕を引いた。
「っ!」
「初流乃君、ごめんね」
「……由紀、あなた大丈夫で「あの、もう帰るから。ごめんね!でもありがとう、楽しかった!!」
せっかく会えたけれど、こんなことに巻き込んではいけない。
小さくしていてもソードにひっぱる力くらいある。それと協力してギアッチョとその場からスグに立ち去った。
※
夕日差し込む帰り道。
スーパーの片道は少し長く、行きとは違って上がり坂だ。
「…………」
それ故に、帰り道の沈黙はとても重く、つらかった。
腕はさっき私が掴んだまま、そのことも指摘されないくらいに、しんとしている。
「あの、ギアッチョ」
それでも、訊かなければならない事があったので口を開いた。
ギアッチョに、どうして
「私、ギアッチョに何か悪いことしちゃったかな…?」
どうして、怒っているのか。
理由を聞いて、直せるなら直すし、謝るべき事があれば謝る。
それにはまずなぜ起こっているのか理由を聞かない事には始まらない。
「……別に、理由なんかねえよ」
「嘘だよ、理由もなく怒るなんてない」
理由なく、あんなに怒るなんて。
確かに虫の居所が悪いというやつはある。けれど、それにだってそうなった理由があるはずだ。
「その理由が俺にもわかんねえ。けどな、オメーを見てるとイラつくんだよ」
「……え?」
みてると、イラつく?
それは、つまり、存在自体に?そんなの、直しようがない。
「つーかオメーと会ってからずっとそんな調子だ。ホントわけわかんねえ」
会ってから。
なんでだろう、すごく心が痛い。
『君と会う度僕は精神を削られるよ。というか会いたくもないぞ今すぐ僕の眼中から消えろ花京院娘』
なんて、どこかの漫画家に言われた事があった。
それよりかは、マシな言葉のはずなのに。
マシなはずなのに、なんでこんなに心が痛いんだろう。
「私が、ギアッチョを怒らせてる…原因」
「アァ、とりあえずみているだけでイライラする。」
「………っ」
その言葉は、怒声でもなんでもない、そんななんでもない声。
辛い
これ以上、この人に、この人を困らせている事実を聞くのが辛い
そう思った時には、脚が動いていて
※
「気付かなくて、ごめんねギアッチョ」
そう言う由紀の表情は、無理な笑顔だった。
少しでもつつけばスグに泣いちまいそうな、そんな表情。
そんな表情にしたのは誰でもないオレで
「私鈍感だから、ギアッチョにそんな思いさせてるのに気がつかなくって」
聞いているこっちが分かるくらいの震え声。
そんな風にしたのも、オレで。
「さきに、帰るね。大丈夫、ちゃんと帰るから!」
夕日の差し込む坂。
オレの腕を掴んでいた手が離れてしまう。
それを引き留める言葉も行動も、なにもできなかった。
ただ、懸命に走る由紀の姿を見る事以外、何も。
「クソッ…」
完全にやつあたりじゃねえか。
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