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私にとっては過去の出来事だ | ナノ
ciliegio
「ギアッチョー、どこに行くの?」
手を引かれて随分と来た。
そろそろ兄貴と歩いた場所より向こう、全く未知の範囲だ。
「そんなに遠くねえよ。スグだ、スグ。」
そんな事を言われて何回目か。
すぐっていうのは本当にすぐ目の前とかそういう時に使われるわけであって……
って、なんかギアッチョのがうつったかもしれない。
早歩き、といっても本当に疲れるほどじゃあないけれど。
夜の冷たい風が当たる。
煉瓦道をそのままずっと行き、ようやく立ち止まったのは公園みたいなところだった。
いやいや、こんな時間に公園とか入っていいのかな?
よく一定の時間過ぎると入っちゃだめだよって言われたりするけれど……
警察沙汰は困るなぁ
「……あれか」
「あれってど…わっ」
また手を引かれる。
もう、強引だな。こういう時お父さんだったらもうちょっと優しく声をかけてくれたり、もっとゆっくり歩いてくれたりするのに。
少なくとも、こんな風にひっぱりまわさない。
……お父さんの事考えてたらまた日本に帰りたくなってきた。
ただ、日本に帰ればいつもの日常に帰れるなら、どれだけいいことか。
「…い」
お父さん、お母さん、どうしてるかな?時間とか、経ってるのかな?
経ってたら、登校中に消えた少女事件とかでニュースになって、おじいちゃんがSPW財団とか使って全力で調べ上げ出したりしてー……
あ、ハーミット・パープルで念写とかするのかな?でもここに居るのってうつるのかな?
イタリアってわかっても、居ないんだけどね……
ああ、なんか本格的に悲しく
「聞いてんのかッ!由紀!!」
「は、はいぃっ!!って、これ……!」
うつ向いていた私が、目の前のギアッチョをしっかりと見て、同時に目に入ったのは桜の花だった。
すぐ近くにライトなんてなくて、月明かりのみに照らされた桜ははらはらと舞っている。
薄暗いと、雪みたいに白く見えるのだけれど、イタリアの桜は少し赤みが強いみたいでその存在をはっきりと出している。
けれど、それはあの時。
四月のあの時に見ていた当たり前の風景で。
「最近お前が元気ねえから、ロゼッタに日本人っつったら何が好きかって聞いたら、桜って言われた。んで、今でも咲いてる場所はねえかって言ったらここなら遅くに咲くって……ッ、オイ、なんで泣いてんだテメー!?」
「え…あ、泣いて…た?あ、ホントだ」
目をこすると、確かに涙が手に付く。
拭いても拭いても、涙は勝手に出てくる。
何かが、決壊してしまったみたいに。
「あれ、桜、せっかくギアッチョが連れてきてくれたのに、滲んじゃって……」
やだな、声まで震えてきた。
色々あっても、声が震えるなんて最近なかったのに。
なんで、こんな
「待って、スグに治るから、スグ」
そう言った瞬間、また、腕をひかれた。
けれど、今度はそのままどこかに行くわけでもなく、引き寄せられて。
「スグっつーのはすぐ目の前とか今すぐのとかに使うもんだろーが」
※
泣いている姿があまりに、頼りなくて。
改めて、こいつは、俺らなんかとは違うか弱い女だって思い知らされた。
「ギアッチョ……う、ぁ……」
「泣いとけ。今は別に強がる必要ねえよ」
それで、いつの間にか抱きよせていた。
本当にわけわかんねえ。泣いてる女なんか今まで何度だって見てきた。
それは日常でも、仕事でも。その時そいつを支えてやりてェとか、慰めてェなんざ一度も思った事なかった。
間違ってもこんなことした事はねえ。確実に人生初だ。
「最近ね…妹の事思いだして」
あの時、ペッシと話していた時か。
聞き耳を立てた事をこいつは知っているのか知らないのかはこの際良い。
黙って話を聞く事にする。
「そしたらね、っ、みんなの、事、思いだしちゃって…」
……そうだ、こいつは、未来人ってやつだ。
だから、知り合いはこの世界に居たとしても、こいつを花京院由紀と認める奴はいねえ。
まともな精神なら、遅かれ早かれ、こうなるのはわかっていた。
「日本に、帰りたい……っ、帰りたいよっ、、ギアッチョ」
「……そうか。」
その言葉に、さっさと帰れるといい、だの、きっと帰れる、だなんて言葉は返せなかった。
思いつかなかったわけじゃあない。言おうと思えば、言えた。
言えたのに、言うのを拒まれた。
「でもね…っ、帰っちゃったら、みんなと離れちゃう…っ」
「!」
「みんなの事、も好き、だから…我儘だけど、それも、辛くて」
「……十年後だろうがカンケーねェよ」
「…え?」
「十年後だろうが、会いに行ってやる。だから、泣いてんじゃあねーよ」
何の根拠もない、慰めなのかもよくわからねーことをいつの間にか言っていた。
ただ、その言葉に嘘偽りはねェつもりでいた。
「うぁ、ぁ……ありが、ありが…とっ」
「泣くなっつってんだから……アァ良い、泣けよッ今のうちに泣いとけッ!」
「言われっ、なくても……泣く…!!」
そのあと散々泣かれて、本当に馬鹿見てえに泣かれて、服が思いっきり湿気ったところでようやく解放された。
「あ、えっと、ごめんね?」
「別に、テメーが洗うんだから文句言わねえよ」
「まぁ、そうだけど…あのね」
散々泣いたおかげで随分と目が腫れている。
その割には、どこか嬉しそうに
「来年も、一緒に見ようね!」
本当に、女ってわけがわかんねえよ。
「来年も見ていたらオメー帰れてねえじゃあねーか」
「あ!」
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