-->私にとっては過去の出来事だ | ナノ

Cucinando



「イルーゾォ……いつの間に?」

「そんなことはいい、なにしてんだよ?そんなに密着して。
見たのが俺じゃあなくてギアッチョだったら問答無用で殺してた。」

由紀の質問には答えず、イルーゾォはメローネの現在の状況に至るに問いただす。
そう訊かれた瞬間、メローネは由紀から離れると同時に持っていたナイフを隠す。

「やだなー、居ても空気読んでくれよ〜?せっかく口説いていたっていうのに」

いつもの雰囲気。
先ほどの重々しい雰囲気の中のメローネとは別人のようでそのギャップに由紀はついていけていない。

ここに居るのは、日常に殺しをやってのける人々。

それを再認識する。

忘れていたわけではない。それなのにその面を見るとどうしても。


「料理してるんじゃあなかったのかよ…。」

「料理している新妻に後ろから抱きつきたくなるもんだろ?」


別に新妻でもなければ、抱きつかれてもいない。
そう思いながらも、
そういえば料理をしていたということを思い出して由紀は調理を続ける。

イルーゾォはといえば、そんなことを言うメローネに呆れ果てていた。

「……始末しようとしただろ」

呆れ果てながらも、由紀に聞こえない声量でイルーゾォはメローネに言う。

「………」

その問いにメローネは答えない。
答えないのはそれが図星だったからというわけでも、なんでもない。

返す必要はないと思っていたからだ。


「もし、敵だと判断したら武器となるものを持っている今、襲われたから返り討ちにした…で筋が通るからな。」

そんなメローネを気にも留めずイルーゾォは言葉を続ける。

「正直、それに警戒をするのは時間と精神の無駄に俺は思ってる。」

「珍しいこともあるんだな、あんたが女を気に入るなんて」

「…そういう意味じゃあない。」

意想外の言葉だったのか、メローネはイルーゾォの言葉に驚いているようだった。
確かに、昨日からの反応を見る限りイルーゾォはあまり女性が得意ではないようだ。

「悪い奴ではないと思う。悪意のある嘘なんて吐けそうじゃあない、ってだけだ。」

「……確かに悪い子じゃあないとは思ってるさ。」

たった三日だ。まだ。
いいや、もう三日だ。
ここにいる者は自分に向けられる殺意、悪意、にどこのチームよりも早く気付ける鋭敏な感覚を持っている。

もしそんなものを彼女が持っていれば、三日と立たず始末されていた。

それなのに、今もこうしてここに居るということは、それらを持たないということだ。


だから、悪い者ではない、それはわかっているつもりであった。


「全員が信じていたとしても、オレが少しは疑わなきゃあいけない。二度と……」

そこまで言って言葉が止まる。
言葉が止まり、やめにする。

そして、それにイルーゾォが触れることはなかった。



「昼は何にするか……っ!?」

あれから仕事に一区切りつけ、仮眠をとり、
昼食を作りに来たリゾットが目の当たりにしたのはテーブルに並べられた食事だった。

「お疲れ様でーすリーダー!」

「……これは、だれが?」

「オレ監修の元由紀が作ったんだ、」

ペペロンチーノにサラダ。何のレシピもなく作ったにしては上々だ。
料理をするなとは言われていたが、それは危険性を考慮してのこと。
メローネが見張っていたのなら何ら問題もない。

「あ、あとリーダー、それ食べたら洗濯機の使い方とか教えて!」

リゾットが席に着いたところで、調理後の片づけをしていた由紀がキッチンから出てきて言う。


「ああ、分かった…それと、よくできている」

「〜〜っ!ありがとうございます」


リゾットがほめると由紀は嬉しそうに笑みを浮かべ、ぺこりと礼をしてまたキッチンに戻る。
それを見て隣に座っていたメローネがクスリと笑った。

「働き者だね」

「本当にな。」

この後すぐに、誰か一人がついていれば料理をしてもいいという令がでることになるのであった。


(……それでも、間違いを起こさないために、オレは君を疑わずにいられない。例え近い存在な気がしていても)



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