-->私にとっては過去の出来事だ | ナノ

citta



さすがに、日本円なんて……使えないよね?
イタリアだから、ユーロじゃなきゃだめだよね……。


「買わねーのか?」

店前で財布を見て立ち止まった私を怪訝そうな目で見てくる。
確かに、あのノリだったら買うと思っただろう。

「兄貴、為替出来る?日本円」

「出来るわけねーだろ。日本円なんざ」


ですよねー、と返してあきらめムードに陥る。
リーダーに会う前に、ギアッチョに為替出来るところに案内してもらうべきだった。そうしたら5000円はユーロになっていたのに。


1ユーロたしか110円くらいだった気がするけれど、それはあの時代であったこの時代の為替相場なんかわからないわけで


「お値段何ユーロなんだろ……」

「ユーロ?」


ユーロと言ったら何を言ってるんだというような顔をされた。
何か、間違った事を言っただろうか。たしかイタリアの通貨は……と言うよりヨーロッパは基本的にユーロのハズだ。


あれ、待って……1999年って、EUってどんな状況だっけ?
1990…何年だったかに三つの柱?
も、もしかして……ユーロって、まだ通貨じゃ


「ユーロってオメーその年で金融にでも興味あンのか?」


なかったみたいだ。
そうか、こういうところも『過去』なんだ。10年近くの時をタイムリープしても、その証拠は分かりにくいけれど、こういうところで矛盾みたいなものが生じてしまう。


「元々日本に居て、最近ユーロって言うのを聞いたからつい……そっか、まだ変わったわけじゃあないんだ。」


適度に訊いたニュースから思い浮かんで着い口走った事にする。苦しいかもしれない……いや、苦しいけれど、元々イタリアに来る予定なんてなかった事になっているから、大丈夫だと思う。


「当分はリラだぜ、ここは。」


リラ、聞き覚えが無いのは通貨の授業の際にヨーロッパがユーロだというのが定着させられているからだろう。

聞き覚えが無いという事は、完全に為替相場とか大体の値段すらもわからないわけで。


「Una coppetta da 2500 lira, per favore.」


諦めよう。そして、許されるなら為替しようと思った時、イタリア語の会話。
見れば、店員さんと兄貴が何か話している。まあ、普通に……注文してるんだよね?

甘いもの好きなのかな?


「………?」


それにしても、イタリア語って綺麗だな。なんて考えながらぼぅっと見ていたら、かわいらしいカップに入ったアイスクリ―ム。それも、たぶんこれは


「これが食いたかったんじゃあねェのか?」

「えっ、いいの?」

「スタンド共々食いたくて仕方ねえって顔してたぞ、お前」


そんな顔をしていただろうか。といっても、自分の表情は自分に分からないわけで。
差し出されたそれを私はありがたく受け取ることにした。


「グラッツェ!為替できたら返すね……やっぱりチェリーだった!!」

その前に、これを食べたいと思っていたのもわかってたんだろうか。なら、すごい観察力、もしくは私の考えはわかりやすいってことか。

そんなことはどうでもいい、とける前に頂くとしよう。


「そんなに好きなのか?それ」

「大好物だよ!」


好きなものは最後まで取っておく主義、といったようにチェリーを残してたべる。
どんな状況であれ、好きなものは美味しいんだなって心から思った。

本当に、たとえ帰ったらもう日の目を見ることはないかもしれなくても、こんな風に広場の女性の痛い視線を浴びながらも、どんな状況でも。


「最後に一つ、聞かせてもらっても良いか?」

「食べながらでも良ければ」


アイスが溶けるのは嫌だなぁ、と思い訊くと構わないと返される。


「覚悟は、出来てんのか?」


アイスを食べる手が止まる。
覚悟。つまりは、いつかリーダーの言っていた切り札として使われるとき。その時に何が起きても大丈夫か、期待にこたえられるか、その気があるのか


そんなことはまだ分からない。私はまだ、何と戦うのか、何のために、何もかもわかっていないのだから。
それでも


「私は、自分の正義に従う。私が正しいと思った行動を貫き通す、その覚悟はここに来る前から……ずっと前からしている。」


分からないことばかりだけれども、それは最初から決まっている。覚悟はできてるか、安請け合いで答えられるような質問じゃあない。
だから、せめてこの状況でも確定している事実を伝えるべきだと私は思った。


「自分の、正義か。」


それ以上は、もう聞かれなかった。
その答えに納得したのか、その答えに失望されたのか、どちらかは分からないけれど、その表情に嫌なものは感じなかった。

アイスを全部食べきり、チェリーを口に放り込む。


「……………」


「…………!?」


アイスにずっと漬けられていたチェリーは、味が移っているのかとても甘かった。

舌で転がすたびに甘さが広がって


「……なんだ、その食い方」




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