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楽園探しの旅 | ナノ
右手の約束
右手に拳銃を持った男がいる。傍らには赤い服を着た女。
「やっぱり、白より赤のほうが似合ってるな。てめーは。」
その赤は、着色されたもの。彼女の血によって。
彼女の体が動くことはなく、彼女が話すことはもうなく。
それでも、十分だった。お揃いの色の服を着て一緒にいられること、それは今まで馬鹿にしていたけれどとても幸せなことだと気付いたから。
「これで、お揃い。お前の思惑通りだぜ、どうだ気分は」
聞いても返事が返ってくることはない。
「俺は、幸せだと思う。」
そう呟くと、ギアッチョはエミの手に相変わらずある紙袋に目がいく。
一体何を自分に渡そうとしていたのか、紙袋を開けた。
そこから出てきたのは白い服。
いままで、彼女は赤い服を渡してきたのに何故。
そして、花束を見たとき激しい後悔が襲った。
花束の花は、今は赤く染まってはいるものの白薔薇。
花束についている紙にはこう書いてあった。
花言葉は 『あなた色に染まりたい』 と。
「どーいうことだよ……なんでそんな……」
混乱。だとしたらあの男は誰なんだ。
もう一度、エミを見る。
自分の色で染まってしまった彼女を。
「……全部、俺の思い違いか?どうなんだよ。」
彼女は答えない。しかし、はっきりと彼には分っている。自分はとんでもない過ちを犯したと。
後悔の念は、彼女の色が変わっていくたび大きくなる。
酸素に触れた赤が、どんどんと黒くなっていくたびに……
「何故……何故なんだァーッ!!」
もう、二度とひとつになれない事実が突き付けられる。
外に出れば夜、星空は気味が悪いくらいに綺麗だった。
『私ね、この時が永遠ならいいと思うの。ずっと、好きな人と居たい。いっそ屑でもいい、星になって輝き続けたい。』
この星空の星屑のどれかがエミなら、エミだとしたら、気の狂ったような考えを持ち彼は手を伸ばす。
だが、彼の手は悲しいほど短く星屑に届くことはない。
そんな彼の手を握り返したのは、仮面の男であった。
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