-->
楽園探しの旅 | ナノ
兄が見た 村の最後
(リゾット視点)
教会で裁判の始まった日、傍聴も入れてもらえることはなかった。
村の者は全員、俺を憐れむような目で見る。教会に入ろうとしても、止められる俺を。
操られている、洗脳されてる、なんてかわいそうな。
「頼むからこの中に入れてくれッ……シオンは何も……」
村人が全員入ると、無情にも扉は閉められた。
裁判の始まったのか声が聞こえる。
神父様の怒声
村人の怒声
純潔の……
悪魔の契り……
災いの種……
マリア様の……
誰もガブリエルを……
これは、裁判なんてものじゃあない。
一方的に、シオンを悪いというだけの言葉のリンチ。
昔あれだけ可愛い、天使だ、なんて言っていたくせに今では悪魔扱い。
その声の中にシオンの声はなかった。
そして、判決の声が響く。それは、火炙りと言っていた。
火炙りが決定すると同時に村人の歓声が上がり、俺は自分の無力さにどうしようもなく立ち尽くしていた。
「嗚呼...悪魔とはお前達のことだ!」
火炙りはほぼその後すぐに行われた。
最後に、火炙りになる直前シオンは俺に向かって口を動かした。
「ありがとう」
と。まるで、目が見え俺がそこに居るとわかっているかのように。
※
シオンが火炙りにされた後、木にくくりつけられたあいつのもとに近寄った。
もうこの場に村人はいない。さっきまで騒がしかったこの場所は今はとても静かだ。
まだ、少し火は残っている。
焼いている間も村人はシオンへの暴言をやめなかった。
心無い言葉 心無い仕打ちが どれ程あいつを傷付けただろう
それでもあいつは、全てを……優しい娘だから……きっと全てを赦すのだろう……
「でも、俺は絶対赦さない……」
俺にこんなことをしろとは絶対に望んでなんかいない。
あの時の罪を自分でかぶるくらいなのだから絶対にこんな事をしてほしくもないんだろう。
だが、俺は……
まだ残っている火を俺は松明のようにして持ち、村に向かった。
そして、村を焼いて回った。
燃える中、聞こえてくるのは悲鳴と怒声。と言っても、村人が出てくることはない。
火の回りが早すぎて、逃げる暇もないんだろう。何故、こんなに火のまわりが良いのかは分からないが。
燃えて消えていくこの村を見て自然と笑みがこぼれた。
「この世は所詮、楽園の代用品でしかないのなら、罪深きモノは全て、等しく灰に帰るが良い!」
──裸足の男 凍りつくような微笑を浮かべ
揺らめく焔 その闇の向こうに『仮面の男』を見ていた──
[ 25/31 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]