-->楽園探しの旅 | ナノ
残酷な運命



「シオン、大丈夫か?」


「お兄ちゃん…大丈夫、気にしないで」


ここ数日、シオンの体調は良くないようでよく吐いたりし、何か病気でも流行っていたのだろうか、そうリゾットは思っていた。


この状態が、とんでもない事態とも知らずに。


そして数日経つと、シオンは信じられないような事実をリゾットに打ち明けた。


「あのね、お兄ちゃん私子供ができたの。」


そんな嘘を、そう言いたくてもシオンの眼差しは真剣なもので嘘をついているとは到底思えない。


「だ……誰の子だ……」


それ以外聞くことができない。

シオンが、自分の知らないうちに知らないやつと愛し合っていたと信じたくなかったからだ。
しかし、シオンはあくまで妹。盲目だというのに愛してくれる人が肉親以外にもいるなら、仕方ないのかもしれない。

そんな思考が頭の中にめぐる中、シオンの次に言った言葉は信じられないことだった。


「わからないの」


頭が真っ白になるような感覚。

わからない。それは、どういうことか。


「シオン……お前、誰が来てもドアは開けるなと言ったな」


「うん……言われた。」


シオンは泣きながら言葉を紡ぐが、誰に何をされたかを言わなかった。

それどころか、行為に至った、等の事は一言も話さなかった。


黙秘、一切の事を話さない。自分に子供ができたというそれ以外は語らなかった。


「どうして話さないッ!シオン言え!お前にそんな事をしたやつは……」


「………ごめんね、お兄ちゃん」


最後にはほぼ怒鳴りつけていた。それにもかかわらず、ただ泣くだけで話はしない。


そんなことがあるはずないのに。下手人はいるのに。


きっと、話せば兄がその下手人をその手で、その手を汚して殺してしまうのだろうとわかっていたのだろう。


だが、このまま誰の子かという事がわからないのならばこの信仰心の強い村はシオンを殺すという事もわかっていた。


人よりも裕福ではない生活をした。

幸せと言っても、他人から見れば大したことのない幸せだった。


それでも、兄妹にとっては幸せな日々を暮らしていたのに。


「ただ、少し幸せに暮らしたかっただけなのに、それなのにどうして……こんな残酷な仕打ちをするんだッ……」


誰に言うわけでもなく、ただ言った言葉。


室内には、妹のすすり泣く声が響いていた。







それから、どうしようもなく日々は流れていく。


リゾットとシオンはあの日から笑う事がなくなり、ただこの事が誰かに露呈しないかと恐れながら日々が過ぎて言った。


しかし、その日の仕事から帰ってきたとき事態はさらに深刻な方向へと向かった。


子供ができたと発覚した後、村人の誰が妹を犯したのか。それを妹が言わずともリゾットはどうにかして探ろうとするものの、妹の話を振ったとたんほとんどの男が口をつぐむという事があった。


そいつが、他のものに協力をしてもらっているのかと手詰まりになっているときだった。

家に帰るとシオン意外に人がいる気配がし、そのすぐ後に耳を疑うような派手な打音。

すぐにその音がしたほうへ向かうと、それが仕立屋の若女将が妹の頬を張り飛ばした音だという事がわかった。


シオンは頬を赤くはらして、涙を浮かべながらその女将がいるだろうと思うほうを向いていた。


泥棒猫……


可哀想な子だと……


世話を焼いて……


恩知らず……

──断片的な記憶……断罪的な罵声……

この言葉が、妹に向けられているなんて考えられなかった。

リゾットは


『可愛い、素直で優しく純真な妹に。

この女は何を喚いているんだろう? 気持ち悪い』


そう思った時にはぐらりと世界が揺れ弾け飛ぶように若女将に掴みかかっていた……


何をするの……


やめて……


ぐぅ……


ところどころ聞こえてくる声。

手には殴っている感触。


視界は赤く染まっていた。


「お兄ちゃん!!」


妹の声がして、正気に戻れば、目の前の女が死んでいるという事がわかる。


「女将さんは……どうなったの?」


見えていないが、多分どうなったかは大体予想がついているのだろう。それでも、何かを期待してかシオンは訊いた。


「死んだ。……いや、殺した。」

「嘘……」


シオンはリゾットに駆け寄ろうとするが、何かに躓いて転びかける。
今回は杖を持っていたというのに。

また、リゾットはシオンを抱きとめた。


シオンはリゾットの顔に触れ、そのことにより手に付着した血で、本当に殺してしまったのだと理解する。


「そんな……だとしたら……」


兄妹そろってひどい目に遭うのだろう。

シオンの妊娠についてはこの様子だと村全部に知れわかっている可能性が高い。


「大丈夫だ、お前は何も悪くない。俺が悪いだけだ。今のうちに違う街に行けば……」



「兄さん……」


「ぐっ……シオン……?」


リゾットが首の後ろに痛みを感じた時にはシオンが立ちあがって杖を振り下ろした後だった。

気絶とまでは行かないが、床に倒れ込む。その過程で口をの中を切ったのか鉄の味がした。



「……兄さんは、何も悪くないよ。

兄さんは、母さんが死んでから目の見えない私をずっと育ててくれた。ずっと、足手まといにしかならないような私を。今回だってそう、若女将さんを殺しちゃったのは私を助けるため。なら、兄さんは悪くなんかないわ。」


玄関のほうで、若女将の悲鳴を聞いたからか人が走ってくるのがわかる。

そして、その人々はリビングの様子を見て悲鳴を上げる。


そして、頭上を飛び交う口論


若女将を殺した……


まさか実の兄まで……


可愛い顔をして悪魔……



「違う……ッ……シオンは何も……「私が全部やりました。兄さんの事も、殺そうとしました。」」


シオンの言葉に人々に動揺の色が見える。

シオンはそれを笑顔で見ている。


「馬鹿なことを言うなッ!シオンは何も悪くない」


リゾットは立ち上がりシオンの前に立ち、言うも人々はシオンから目線を外さない。



かわいそうに……

一緒に居た時間が長かったから……


洗脳されてしまった……

操られている……


早くこの悪魔を教会へ……


「やめろ!シオンはッ……」

シオンを教会へ連れて行こうとする人々からリゾットは防ごうと立ちふさがった。

しかし、次の瞬間意外なことが起きた。


「兄さん……ごめんなさい」


そう呟いて立ちふさがっていたリゾットの横をすり抜けていった。


すぐにシオンを止めようとするも、他の人々に止められる。


その後にきいたのは、裁判の日程が決まったこと。




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