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暮らしの変化



母が亡くなって数年、暮らしには変化が訪れていた。

二人は大人と言ってもいいような年齢になっていた。

目の見えない妹。母は、シオンをちゃんと助けていくようにとリゾットに言っていた。


そんなことを言われなくても、リゾットはそのつもりであった。いつかは母は先に死んでしまうし、シオンは可愛いとはいえ盲目。肉親以外に支えようとする者はいない。そんなシオンを助けるのは自分の役目だと思っていたし、それはそんな風にしてしまった自分の最大の償いだとも思っていた。


「兄さん……これから仕事?」


「ああ、また深夜に帰ると思うから先に寝ていてくれ。」


この暮らしを保つために、リゾットは朝な夕な働いていた。

少々、危険な仕事にもかかわっていた。


「あんまり、危ないことはしないでね……」


シオンにその危険な仕事については話していなかったが、何となくシオンは気付いているようだった。


「普通の仕事だ、大丈夫心配するようなことはしない。」


シオンに不自由はさせたくなかった。ただ、昼から夕方にかけて家をあけるという行為には少し不安があった。


「それよりも、誰が来てもドアを開けないように。いいな?」


「子供じゃないんだから……わかってるよ。」


そう言ってむくれるシオンをなでてリゾットは家を出ると、村の者がいつものように声をかけてくる。


いつも大変だな。


困ったことがあれば相談しろ。


手伝えることがあれば言ってくれ。



リゾットはそれをいつも適当に返し、対応していた。


そして、いつも気になることは何故いつも男ばかりがこのようなセリフを言うのかという事だ。


初めのうちはたしか、女も言っていた。それも適当に受け流していたのは記憶にある。

だが、最近は女は声をかけてこなくなった。まあ、それは面倒な受け答えが一つ減っただけだとリゾットは思いあまり気にしないでいた。






「兄さん!おかえり!!」

仕事を終え、帰るともう遅いというのにシオンはリゾットを出迎えた。


「どうしたシオン。先に寝ていていいと言ったはずだが……」


少し予想していなかったことに驚いたが、シオンのその笑顔に素直に嬉しいと思えた。シオンは目が見えないといってもそれを不幸とも思わず、そしてそれを憎むこともしない良い子であった。

「今日は兄さんを待ちたかったの。何となくだけど。……わわっ」


リゾットのほうに歩もうとしたが、シオンは足元の物に気付かず躓きバランスを崩すと、それをリゾットはすぐに抱きとめた。

「見えないのだから杖を持ち歩けと言っただろう」


「えへへ、ごめんなさい。」


笑ってごまかすシオンにあまり怒ることもできず苦笑すると、シオンはあまり反省していないようにまた笑った。

そして、シオンの今日あったことを聞きながら夕食を食べていた。

夕食を食べ終わるとシオンはテーブルに突っ伏して寝ていた。


「……やっぱり無理をして起きていたのか。」

そう独り言をつぶやくと、リゾットは食器を片づけシオンを抱きかかえ寝室に向かった。

「おやすみ、シオン」

幸せそうな寝顔、

決して裕福な暮らしではなくても、ぬくもりのあるこの暮らしは二人の兄弟にとって幸せであった。




そう、あの日までは……


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