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楽園探しの旅 | ナノ
神への祈りと懺悔
ある日、ふとリゾットは思った。
こんなに苦しく思えるのなら、このまま妹が他のものに愛を向けるのを見るのが嫌ならいっそ、妹が死んでしまえばいいかもしれないと。
とはいっても、願望でも何でもなく、何となく思ってしまった事。
たとえば、悪口を言われたからという理由で何となくあいつは死ねばいいと思う感覚に近いもの。
「……何を思っているんだか、俺は。」
ばかばかしいと思いながら、リゾットは妹を見る。
「どうしたの?お兄ちゃん」
シオンは屈託のない笑顔をリゾットに向ける。
「いいや、なんでもない。」
そういいつつも、その笑顔を自分だけに向けてくれるようにはならないかと、リゾットは思った。
「あのね、お兄ちゃん……今日は」
「ッ!?どうしたシオン顔が赤い、それに体温が……」
ふらっとしたかと思うと、シオンは倒れた。
シオンは高熱を出していた。
「そんな……まさか……」
あの時の願いを本当に神がかなえてしまったのか。
その日から母はシオンを看病していた。原因のわからない高熱、このまま続くなら死んでしまうかもしれない。
なんで、こんなことに。そう考えると、一つ思い立つことがあった。
『妹が死んでしまえば……』
まさか、そんなことが。信じられるわけ無い。
確証があるわけでもない。
それでも
「シオン……すまない。」
「……お兄ちゃん……?なんで……あやまるの……?」
「……すまない」
リゾットは謝ることをやめられなかった。
シオンの熱は下がることなく、3日が経っている。
懸命に看病するも、一向に良くならないこの状態はある種の絶望でもあった。
「……」
リゾットは、また願った。
神なんて本当にいるかは信じていない、それでも妹のシオンのために。
あの願いは、嘘なんだ
と、懺悔を続けた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!起きて!」
朝、リゾットはその声で目が覚めた。
だが、近くに人がいる気配がしない。シオンの声だとはわかったが、何故自分の近くまで来て起きてといわないのかが疑問に思えた。
それはいいとして、リゾットは声のしたほうへ向かう。
「どうした?シオン、熱はもう下がったのか?」
シオンは自室に居るわけでもなく、自室の手前の廊下に居た。
様子からすれば、もうすでに熱は下がったように見える。
「お兄ちゃん、そこに居るの?……それより!お母さんが何かおかしいの!居るのはわかるんだけど私の声に反応してくれなくて!!」
そう言ってシオンはリゾットの方に駆け寄ろうとするが、その途中で転んだ。
やっぱり本調子じゃあないのか、そうも思ったが先程の言葉を思い出し気付いた。
「シオン……お前まさか目が」
「今はそれどころじゃあないのお兄ちゃん、早く母さんのもとへ!」
転んだシオンに手を差し出すが、シオンがその手を握り返すことができないことで、予想は確信に変わった。シオンは目が見えなくなっていた。
シオンにせかされ、とにかくシオンの部屋に向かうと母は倒れていた。
シオン同じ原因不明の高熱。シオンも治ったのだからきっと治るだろうとは思っていた。
しかし、現実は非常にも母が治るという事は……無かった。
母が今際の時に言った言葉は、
「シオンは人とは違うから…貴方が助けてあげてね。」
であった。
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