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楽園探しの旅 | ナノ
余剰な数字
街に行ってから一週間くらいたったころ、いつものようにエミの所に行くとその日は作業をしていなかった。
やっぱり冬にもなると、この道にも全く人通りが無くなるくらいなんだから、やることがないんじゃあないか、と思っていたけれど、エミは真剣な面持ちをしていた。
「こんにちは、メローネ。」
「あれ?今日は作業はしないの?」
軽く言って返すけれど、エミは真剣な顔をしたまま俺を見ている。
「ええ、本当はあるけど……今日はメローネに話すべきことがあるの。」
何故だろう、聞きたくない。
こういう表情をした女に何があったか大抵決まっている。
何か悲しい事があった時とこれから悲しい事が起きる時。
「ちゃんと聞くさ、真剣な話なんだろ?エミ」
それでも、話を聞かないからといって避けられるわけないことくらい、子供じゃあないんだからわかっている。
「私ね、明日から違う街に行くの。」
「違う街、ね。」
嫌な予感が、的中しそうで嫌だ。
こんな風にちゃんとした家があって、違う街に行くなら引越しのわけない。
「そうよ、あの街じゃあない街。私結婚するの。」
あーあ、やっぱり嫌な予感が当たってしまった。
エミが街に行きたくないと言っていた理由も大体わかった気がする。
「そうか、それはおめでとうと言うべきなのかな?」
「わからないわ。一応何度かは会ってる人なの。優しい人だった。」
「……それなら、君は幸せなんじゃあない?」
本当に、そう思えるはずがない、おめでとうなんて言えない。
何度か会っているっていっても俺のほうが会っているはずだし、エミの事好きだし。
「そう、ありがとうメローネ。」
エミは終始表情を変えなかった。
「明日の式来てね。」
そして、俺もなぜか何も言う事が出来なかった。というよりこの時のやり取りをよく覚えていない。
適当に相槌を返していただけかもしれないし、終始無言だったかもしれない。
エミと別れてから、よくわからないことが頭に浮かんでは消えを繰り返していた。
何で人は恋をする。
何でその恋は相応しい季節に出会えなかったのか。もっと、ずっと、早くに出会えていればもしかしたらこんなことにはならなかったのかもしれないのに。
いままでしてきた恋は、どれだけ不毛なものだったんだろうか。
3なんて不安定な数字を配置する必要はないだろうに。
余剰な数字は、引かなくちゃいけない。
「そうだ、明日の式に引こう。」
世界が安定を求める以上仕方のないこと。
幸せになるなら犠牲は付き物だし、仕方ない。
衝動に突き動かされ、次の日を待った。
※
「ねえ、今日の式の花嫁の友人なんだけど……控室ってどこかわかる?」
「控室なら、そこの角を……」
式場に着くと、すぐにエミの居場所を訊いた。
何の問題もなくエミの居る部屋に着くと、俺はノックもせずにその部屋に入っていた。
「だ……メローネ、本当に来てくれたのね。」
少し驚いた様子で、純白のウエディングドレスを着たエミがそこには居た。
一人きりとはまた好都合だ。
「エミ、俺と一緒に来てくれない?」
「メローネ、それ本当に言って……っ」
俺は、エミの腕を引き言い終わる前に口を塞いだ。
「一緒に来てくれるよね?」
「………」
エミは抵抗せずに、顔を赤くして俺を無言で見ている。
まあ、OKとして判断していいだろう。
「じゃあ、行こうか。」
俺はエミを抱えて部屋を出ようとした。
「エミ、そろそろ式が……ッ!?お前何を」
あーあ、こんなときに邪魔が入るだなんて本当にドラマじゃないんだからさ。
しかも、恰好からすると新郎。
「うるさいな、ちょっと消えろ。」
まあ丁度いいから俺は数を引くことにした。
3-1、不安定な数字を安定させるための模範的な数式。
持っていた鎌で首を狙うとすぐに倒れ、死んでしまった。
「………」
それを見て、エミは特に何も思っていないように無言だ。
「何も思わないか。まあそれもそうだよねぇ?エミはもともとこいつの事愛してなんかいないし。」
新郎の死体を後目に、俺はエミを抱えて外に出る。
「うーん、ほとんど何も考えないで連れ去っちゃったけどどうしようか」
きっと今頃式場はパニックだろう、花嫁はいないし新郎は死んでいるし。
まあ、関係ないか。だって俺の目的は全部完了した。
「あ、そうだ街に行こうかエミ。約束していたしさ。」
「………」
エミは無言で首を縦に振った。
照れているのか相変わらず顔は真っ赤だ。
そんなエミが可愛くて、キスした。
ほんのりと鉄の味。いつの間にか見てみれば、俺の手も真っ赤に。
……何でこんなに鉄の匂いがするんだろう。
「エミ、怪我してる?」
今、この状況を誰か他人が見たら何と言うだろう。
血を止める物でも切り口に当てないとな、と思いながら俺はエミを抱えて歩く。
「ああ、最初からこうしていればよかったよ、エミ。こんな風に君を連れ去っていればよかった。」
それは首じゃないかとか言うのだろうか。
道にぽたぽたと赤い印をつけながら歩いていると、俺の目の前には、いつの間にか
仮面の男が立っていた。
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