-->楽園探しの旅 | ナノ
拒絶と理由



石段のうえから突き飛ばされた。


全部悪いのは俺。

わかっている、だから






普通の一般家庭の一人娘、それが俺だった。

「…………」


家にある服は基本的に可愛らしいもの、両親からもらえるおもちゃはぬいぐるみや可愛い人形。


それを嬉しいと言い、俺は過ごした。


本当は、違和感しか無かったけれど。


昔、両親に自分は男だと言ったことがある。その時親はそんな嘘はつくものじゃないと言った。

自分は女だと言われても意味がわからないけれど、両親の前では女として居ることにしたのはその頃からだった。


そんなある日、両親が俺を突然教会に行かせるようにした。


そしてその時初めて外で駆け回って遊べるようにと男の子の服を買って貰えた。


それを俺はチャンスと思い、教会では完全な男として過ごすことにした。


初めて教会に行く日、俺は楽しみで仕方なかった。男として、誰にも偽ることの無い自分で関わることができると。


「シオンだッ!よろしくな」


大丈夫、みんな違和感を持った顔はしていない。

そう安心した時、俺の目には一人の少年が目に入った。


一人だけ、なにか普通と違う感じ。



今思えば、それは一目惚れの一種だったのかもしれない。




「おい」


自由時間、他のやつに誘われてもそれを断って俺はさっきのやつにはなしかけていた。

一回目、反応なし。

「おーーーーいッ!人の話聞けェー!」

本に集中してるかは知らないけれど、もっと大きな声で言ってみた。

予想外に驚かれて少し罪悪感が。

「ッ!……何?」


何、というより誰お前とでも言いたげな顔だ。



「ああ、俺はシオン。天下の美少年と呼んでくれても構わないぜ。」


と言う事で、もう一度自己紹介をした。


「……イルーゾォ。」


それが、イルーゾォとの初めての会話。


それから、俺はしょっちゅうイルーゾォとつるんでいた。



それに、この教会の事も好きだった。特に楽園……


そこに行けば、なんでも願いがかなうなら俺はちゃんとしたひとつの性を手に入れたい。


そしたら、両親にも自分を偽る理由もなくなる。



数年たって、俺は戸惑った。


予想通りの成長のストップ、初経の始まり、俺の心とは逆にどんどんと女らしくなっていく体。

そして、こころは男のはずなのに女を恋愛対象として見れずに男が好きな自分。

どうして、こんな風になってしまったのか意味がわからない。


「なんでだよ……俺は…男なのに……」


俺を男と認める人がいるから、俺は自分を保つ事が出来た。


なのに、その男と認めてくれる人が好き。


「こんなんじゃあ……気持ち悪がられるよな……イルーゾォに……」


男が好きだと言えば、両親からは喜ばれるだろう。

でも、彼はどう思うだろうか。


いずれにせよ、ひとつの性を持たない俺じゃあ………


「好きになる資格もないよな……」



俺は、俺に嘲笑した。








「俺が、シオンのことが好きって言ったらどうする」

イルーゾォの突然の言葉に何事かと思った。

高鳴る胸に、これは友達としてるにきまってるだろと言い聞かせた。

「なに言ってんだよ、俺だって好きだぜイルーゾォのこと」

いつものように笑って返す。
うん、そんな事があるわけない。


「そういう感覚の好きじゃあない。恋愛感情として」


嘘だ。

確かにそれは望んでいたことだけれど、俺はこんなやつで……



「イルーゾォ、その気持ちは嬉しいけど……俺は男だぜ?うん、男」

男だっていうのに、好きと言ってくれるなら。

本当に、こんな俺を好きと言ってくれるなら……



「確かに男同士ならおかしいかもしれないけど
シオンは女じゃないか。」


「――!?」

イルーゾォの言葉は、俺の予想していないことだった。

俺は女……?なんで、イルーゾォが両親みたいな事を言うんだ?


イルーゾォは俺を男と認めてなお言ったわけじゃないのか……?


無意識のうちに体は震えていた。



「お……俺は……俺は……男だ。女なんかじゃない。」

誰に言うわけでもなく、拒絶の言葉を吐く。イルーゾォに、俺自信に。


「ごめん、イルーゾォ」

涙が止まらなくて、俺は走り出していた。


「シオンッ、待て!」


走り出してすぐにイルーゾォの声が聞こえる。



「…………」

俺は無言でそのまま立ち去ろうとしたけれど、イルーゾォにすぐに追いつかれ手をつかまれる。

やっぱり、ここでも男女の身体能力の差とかを思い知らされる……。


「離してくれ、イルーゾォ……」



「…………」


イルーゾォは無言で俺の手を離すことはない。


「イルーゾォ……俺は男なんだよ。お前が何でそう思ったかは知らないけれど俺は男なんだよ」


観念して俺はイルーゾォのほうを向く。それでも顔を見ることはできなかった。

そして、俺は

「だから、イルーゾォの気持ちには答えられないし……もう一緒に居ることもできない。ごめんなっ……本当に」


イルーゾォを拒絶した。


たとえ、好きと言われても、たとえ両想いでもこの想いは間違ったものだとわかっていたから。

この違いは、到底理解しあえるものじゃあないとわかっていたから。

手を振りほどいてしまえばこれでさよならだとはわかっていた。それでも俺はその手を振りほどく。

悲しそうな顔をしたイルーゾォに俺は謝ると、また走って逃げようとした。

石段を降りる。

後悔が津波のように押し寄せる。

その時

「ごめん」

イルーゾォの声が聞こえたかと思うと俺はバランスを崩し、宙に浮いたような感覚が訪れる。

何で、お前が謝るんだよイルーゾォ……なんでそんな顔してるんだよ……

全部悪いのは俺だって言うのに。


石段を転がっていく。


もしこのまま死んで楽園に行く事が出来るなら、俺は……この歪んだ性を正したい……。



最後の最後……霞む視界、石段の上に見えたこの場から立ち去るイルーゾォの背後に


仮面の男が立っているのが見えた。






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