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楽園探しの旅 | ナノ
ひとつの末路
「我々を楽園へ……」
次の日は、集会だった。
俺は楽園なんてものは信じていないけれど、シオンが信じているから集会には毎回出ていた。
今日の集会ではエミという少女にお告げが出た。
エミは今日、シオンが連れてきた子だ。
祭壇に上がると《Ark》というものを受け取っていた。
それはエミになにかをさせようと誘導するように見えた。
やっぱり、この教団を信じることは出来ない。
エミに対して何かする分には俺には関係ない。だが、もしもシオンに対して何かをするなら俺は許さない。
「おーい、イルーゾォ?集会終わったぜ?」
ハッとして見ると、シオンが俺を呼んでいた。
すぐに外に出ると、エミがいる。
「今日はじめてきた私なんかが、お告げをもらえるなんて……他の人に申し訳ないです。」
「そうでもないぜ、最後にはみんな楽園に行くことができるんだ。俺はそんなに急いでいねえし、エミみたいな悩んでいる奴が先に行くことができればいい」
笑ってはいるけれど、無理をしていっている事はわかった。
いつか行ける、じゃあない。シオンは早く楽園に行きたい。
何の願いがあるのかは知らないけれど、シオンにはそれだけ大切な願いがあるんだろう。
「じゃっイルーゾォ、ちゃあんと送ってやれよ!」
「わかってるよ。シオンが送るより安心だろうし。」
「お前……じゃあな!エミ」
シオンはエミに大きく手を振った。
相当エミのことを気に入っているんだろう。エミも振り向いてシオンに手を振っていた。
「イルーゾォさんとシオンさんは友達なんですよね」
少し二人で歩いていると、エミが口を開いた。
「そうだけど。」
一言で返すと、エミは黙ってしまう。シオンのように話し上手ってわけじゃないみたいだ。
自分自身も、あまり話すのは得意じゃあないから人の事はいえないけど。
それにしても、シオンはあのときのエミの話をどう思っているんだろうか。
きっとあいつの事だから、ただ単にエミの兄がエミが何かを失敗して咎めている、それか邪魔になったからとでも思っているんだろう。
『貴女のお兄様は何かに戸惑っているのでしょう。』
この言葉が、やけに引っかかっていた。
ただの兄妹愛なら、何を戸惑う事があるのだろう。神父は、この話の本質を理解していたんだ。
そして、俺にもそれが理解できた。
エミの兄はエミに対して恋愛感情を持っている事に。
なにより、自分も少し前までは普通では抱くことのないれない感情を抱いて困惑した事があった。
ならきっと、俺達は似ているんだろう。どこか。
「エミ、シオンは俺の救世主のようなものなんだ。」
「救世主?」
そう思っていたら、俺はシオンのことをエミに話していた。
違いと個性は別の物で、拒絶を恐れていた俺に理解と言う言葉を教えてくれた事。
シオンが俺にとって必要な存在だという事
そして
俺は楽園なんてものは信じていないと言おうとしたとき
「エミッ!!」
「に、兄さん!?」
タイムリミット。エミの兄が居た。
「……この人が、エミのお兄さん?」
「ああ、そうだ。妹が世話になったようだな。」
俺に対して敵意しか感じられない。
こんなに大事に思ってるのにエミには伝わらないなんて。
「兄さん……イルーゾォさんは私をわざわざ送ってくれたんだよ。」
エミが言うけれど、べつにどうでもいい。
気にしていないと言って俺はその場を去った。
少し歩いた後になにか嫌な予感がしてもう一度戻った時には、
倒れた二人が居た。
ああ、やっぱり。
月光を受けて赤く光る《Ark》をみて俺はまた楽園を信じられなくなった。
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