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楽園探しの旅 | ナノ
監視卿と仮面の男
「被験体#1096通称『妹』同じく、被験体#1076通称『兄』を殺害。<症例番号12>過剰投影型依存における袋小路の模型即ち≪虚妄型箱舟症候群≫……以上が今回の実験結果です。」
モニターには、倒れている二人の映像が映っていた。
ここはとある研究施設の一部屋。多くのモニターが並んでいる。
「また駄目だったか……」
研究員が出ていくと、監視卿……プロシュートはぽつりと呟いた。
ちらっと横にあるベッドをみるとエミが寝ている。
少女だったころのあどけなさはほとんどなく、大人の女性となっていた。
だが、彼女は眼を覚ますことはない。
あの日も、今回の被験体と同じような展開になりプロシュートはエミにナイフで刺された。
『楽園に帰りましょう?お兄ちゃん。』
そう聞こえた時、とっさに手を出してナイフを防ごうとした。
薬指を貫通して、刺さるナイフ。
その痛みに目の前が霞み、体が崩れ落ちるように倒れた。
『エミ……本当は……俺はお前の事を……』
『お兄ちゃん、大丈夫…わかっているから。』
エミは自分の心臓に向けてナイフを刺し、倒れた。
愛する、兄に手を伸ばしそのまま意識を失っていった。
この後、すぐに誰かが救急車を呼び兄妹は一命を取り留め回復した。
ただ、妹は現実を受け止めたくないとでも言うように目を覚ますことはなかった。
本当に、楽園に行ってしまったように。
『海馬に手を加えることで、妹さんが目を覚ます可能性があります。』
目覚める事のない妹を救う方法があると聞き、研究施設に来た。
それは、神に背くような実験であった。
「……どうでもいいな、そんなこと。」
そんなことはプロシュートにとってどうでもいいこと。
エミがまた目を覚ます事があればそれくらいは何でもなかった。
モニターにはいろんな背景に、とある二人の兄弟が映っている。
表情はすべてバラバラ、とあるモニターには幸せそうに暮らす二人。
とあるモニターにはナイフを突き刺して喜ぶ妹。
そして、違うモニターには……
いくつかのパターンの中で、二人がすべて幸せになれるエンディングを探すのがこの研究の目的である。
「いつまでかかるかわからねえが……エミ、オメーへの償いだ。これは。」
モニターを見ることをやめ、溜息をつくと失ったはずの『左手の薬指』が虚しく疼いた。
そして、また視線をモニターのほうに戻すと……いつの間にか、ナイフを握る少女の背後には仮面の男が立っていた。
決して結ばれることのない二人の男女
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