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楽園探しの旅 | ナノ
兄の記憶1
「お兄ちゃん……お父さんとお母さんはどこに行っちゃったの……?」
「……エミ、これからは俺がお前を守っていくからな」
「……うん!」
両親が死んだ日、俺とエミは親戚の家に引き取られた。
エミはもうあまり覚えていないと思うが、その時の環境は最悪……とまでは行かないもののひどいものだった。
「なんでそんなこともできないのッ!ダメな子だね!!」
「……ご、ごめんなさい、ごめんなさ……」
「それなら俺がやりますから……」
エミの当時の年齢でできないような事を、叔母は当然とばかりに押しつけていた。
それをカバーしてエミを守るのが、俺の役目だった。
それは兄として、たった一人の家族として。
叔母のよくわからない我慢の限界が来た時、俺達は伯父のほうに引き取られた。
伯父は、それなりに裕福な人で独り身。
「君たち、久しぶりだねぇー……最初から私が引き取っていればよかったんだけど」
伯父は、一応優しい人ではあった。エミが失敗しても怒らない、意味のわからないことで体罰を加えたりしない。
前の暮らしと比べれば、楽園と言っても過言じゃあなかった。
ただ、俺はこいつを心の中から好きにはなれなかった。どうしても。
「お兄ちゃん!伯父さんがね、今度私に勉強教えてくれるの!!」
「……ああ、そうか。そりゃあよかったな」
エミは完全に伯父に懐いていた。
本当にいい人なんだろうか、と警戒はとき始めていた時事件は起きた。
その日は外出をしていて家に帰るのが遅くなっていた。
勉強と、その帰りにエミと伯父に買い物を頼まれていたからだ。
早足で歩いて行くと、予想していたよりも早く家に付く事が出来た。
その時、聞こえてきたのはエミの悲鳴だった。
「今のはッ……」
強盗でも入ったのか、それとも怪我でもしたのか。
とにかく気が気じゃなく、すぐに玄関のドアを開け室内に入った。
だが、そこで見たのは信じたくない、しかし心のどこかで予想はしていた光景だった。
「お、お兄ちゃん……助けて……」
「チッ…なんでこんなに早く帰ってくるんだ……」
伯父が、エミを組み敷いている。エミの目からは涙が溢れていて、頬も赤くはれている。
服は少し乱れてはいるが、破けたりはしていないところを見るとまだ無事なのだろう。
「どけッ……すぐにエミから離れろ……」
「おい、誰に命令をしている……」
「どけって言ってるのがわからねえのか」
ぶっ殺す、と心のなかで思った時には目の前にいた男は肉塊になっていた。
おびえるエミ、床に散らばる血。
「お兄……ちゃん、伯父さんは……」
「死んだ。」
だよね、とエミは一言言い、それ以上は何も言わなかった。
「……こいつの処理だが、全部俺に任せておけ。お前は話を合わせるだけで良い」
そう俺が言うと、エミはわかったと頷いた。
幸いなことに、この家は森を抜けないと町へいけないような所に建っていた。
夜には野犬が出るような森。
家にあったの猟銃と伯父の死体を持ち、森に入った。
そして、置いたらすぐに森を出た。
出るのと同時に多くの足音が聞こえる。このまま食い散らかせば良いが、と思いながら家に向かった。
家に帰り、床の血を二人で掃除し、血のついた服は燃やし、自分についた血は洗い流した。
「伯父は遅くなった俺を心配して迎えに行った。いいな?」
「はい、お兄ちゃん。」
そこからは、面白いくらいに全てがうまくいった。
猟銃を持ち町の方まで行き、顔見知りの家を何件も訪ね伯父は来ていないかと聞いて回った。
どこにもいないとなると町総出で捜索が始まる。
町の中を全部探しても伯父がいないとわかると、次は森を探し始めた。
森の中に野犬がいることは有名で、ここを抜けて伯父を探しに来た俺への印象は良いものとなっていた。
森に入り、死体を置いた場所から少し進むとそこには野犬が群がっていた。
伯父は原型を留めていなかった。
これで、養子を迎えに行った伯父が野犬に襲われ、帰って来ることはなかったという悲劇的な話が出来上がった。
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