-->楽園探しの旅 | ナノ
妹の記憶3



集会所は想像していたより広く、人も沢山いた。


こんなに多くの人が、楽園のことを信じている。

私の悩みよりもっと深刻な人だっているんだろうと考えると、心が痛んだ。


「エミ、今日はこの集会で楽園へ行くためのお告げが貰えるんだ。もしかしたら、このお告げでエミも救われるかもしれないな。」


「シオンさん……ありがとうございます。」


「二人とも、そろそろ始まるから静かに。」

イルーゾォさんが言うと、シオンさんははいはいと適当に答える。

何か儀式のような事が始まり、その儀式を行っている人の中には先程の神父様もいた。

儀式中は物音が一切せず、無音に近かった。少し怖い。

そして、一人の男性が祭壇の前に立った。

「これからお告げを言い渡します。エミという少女、前へ。貴女へのお告げです。」


「えっ」

無音の中、私は声をあげてしまった。私と同名なだけかもしれないのに……


「そう、貴女です。お告げ通りの少女よ。」


その人が言うと、私の前にいた人が道をあける。

そして、祭壇までの道が出来上がる。

どうしようかと困っていると、シオンさんが小さな声で行って来い、と言い背中を押した。

その行動に、勇気をもらい一歩ずづ祭壇に近寄る。


「我々を楽園へ導ける箱舟は哀れなる魂を大地から解き放つ。
救いを求める貴女に≪Ark≫を与えよう」


その人はお告げを私に言うと、私に≪Ark≫を渡した。

≪Ark≫は月光を受けて銀色に煌めいていた。





「≪Ark≫って箱舟の事だよなー」

集会が終わり、外に出るとシオンさんが言った。

「ってことはエミは近々楽園に導かれるってことか!よかったな!」


「今日はじめてきた私なんかが、お告げをもらえるなんて……他の人に申し訳ないです。」

「そうでもないぜ、最後にはみんな楽園に行くことができるんだ。俺はそんなに急いでいねえし、エミみたいな悩んでいる奴が先に行くことができればいい」


シオンさんは相変わらずの明るい笑顔で言った。

本当に、優しいんだな……。


「じゃっイルーゾォ、ちゃあんと送ってやれよ!」


「わかってるよ。シオンが送るより安心だろうし。」


「お前……じゃあな!エミ」






シオンさんと別れて、私は夜道をイルーゾォさんと歩いていた。


「イルーゾォさんとシオンさんは友達なんですよね」

「そうだけど。」


全然話が弾まない。いままで、兄さん以外の人とあまり会話しなかったせいもあると思うけど……。


「エミ、シオンは俺の救世主のようなものなんだ。」

「救世主?」

イルーゾォさんは私に向けて話しているけれど、言っていたことは独白に近かった。

シオンさんは、イルーゾォさんにとってとても大切な人。だと


「シオンを信じているから俺はあの教会にいる。本当は、楽園な「エミッ!!」」


「お、お兄ちゃん!?」


家に近い道とはいっても、こんな所でお兄ちゃんに出くわすとは思っていなかった。

お兄ちゃんは、そこらじゅうを走っていたのかだいぶ疲労している。


「……この人が、エミのお兄さん?」


「ああ、そうだ。妹が世話になったようだな。」


「お兄ちゃん……イルーゾォさんは私をわざわざ送ってくれたんだよ。」


なにかにイラついた口調でお兄ちゃんが言う。

イルーゾォさんは、気にしてないからいいよ。と言って、そのまま立ち去ってしまった。


「お前…こんな時間まで何していたんだ?心配しただろうが……」


「お兄…ちゃん」


心配そうな声。ああ、昔のお兄ちゃんだ。それだけで、私の目からは涙があふれる。

でも、このまま家に帰ればお兄ちゃんはまた悩む。なやんでまた私を嫌いになってしまう。


「ほら、帰るぞ。「お兄ちゃん、聞きたい事があるの。」」


私の声に反応して、お兄ちゃんは立ち止まる。


「ねえ、何故変わってしまったの?あんなにも愛し合っていたのに。」


涙を、笑みに変え私はお兄ちゃんに詰め寄る。


「さあ、楽園に帰りましょうお兄ちゃん。」





≪Ark≫を握って。



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