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楽園探しの旅 | ナノ
妹の記憶1
お兄ちゃんが、冷たい。
「お兄ちゃん、私の枕は……?」
「お前は自分の部屋にちゃんとベッドがあるだろ。」
「え、一緒に寝るんじゃ……」
「いつまでも子供じゃねーんだ、一人で寝ろ」
お兄ちゃんが、冷たい。
「お兄ちゃん、手繋いで歩こ?」
「しない。普通に歩けるだろ」
お兄ちゃんが、私に触れなくなった。
一緒にいてくれなくなった。
突然のことだった。いつからそうなったかもよくわからなかった。
「お兄ちゃん……どうして……?」
お兄ちゃんは私の事が嫌いになったの?
お兄ちゃんにとって私は邪魔者なの?
ずっと、幸せな日々を過ごせていけると思っていたのにお兄ちゃんは私を愛してくれなくなった。
私は、それがあまりにもわからなくてお兄ちゃんに真意を求めた。
「お兄ちゃんは、もう私の事を愛してくれないの」
私が訊くと、お兄ちゃんは戸惑った表情を浮かべて、黙りこくってしまった。
きっと、何かの間違いだったんだと思う。
そう信じてお兄ちゃんの言葉を待った。
「いいかエミ、俺達はもう十分な大人で兄妹だ。だから、もう愛す事は出来ない。」
わけがわからない。
もう愛す事は出来ないって、どういうことなの?
一緒に寝てくれない、手を繋いでくれない、話もあまりしてくれない、キスもしてくれない。
「お兄ちゃん……意味が、わからないよっ……」
私はその場にいる事が出来なく、走り出した。
あてもなくただ走った。どこまでも。
※
泣きながら走っていく。
ろくに道も見ないで、前も見ないで走っていくと、何かに躓いた。
「いった……うぅ……」
『ろくに前も見ないで歩くからそういうことになるんだ。全く……。』
いつもなら、お兄ちゃんはそう言って手を差し伸べてくれた。
それを思い出すと、また涙が止まらなくなる。
「おいお嬢ちゃんどうしたんだ?」
「え?」
私の前に差し出される手。
でもそれは、お兄ちゃんの手ではない。
きれいな女性……男性?が、私に手を差しのべていた。
「あぁ、俺はシオン。安心しろ、一応妙なやつ……ってことはないぜ」
「は、はあ」
シオンと名乗ったその人は、とても明るい笑顔で言った。
しゃべり方からして、やっぱり男性なんだろう。活発そうな、少し年上の
「シオン、急に走っていったと思えば……何?その子は」
そんなとき、シオンさんに続いてきた人がいた。
こっちの人は、一目見てちゃんと男ってわかる。
「あ、こいつはイルーゾォ。俺のツレ。」
「そんなことより、どうしたんだこの子。泣いてるけど」
「あー、そうそう。お嬢ちゃんどこか怪我でもしたのか?」
久しぶりに、人の優しさに触れた私は、その場でまた泣いた。
状況のよくわかってない二人は、そんな私を見てどうしようかと困惑していた。
「とりあえず、ただ事じゃあなさそうだな。そこの教会に行かないか?話は聞くぜ」
シオンさんは、私にそう言うと私の答えを待った。
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