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「ねえ、今君は幸せかい?」

その言葉を何度尋ねたことか。
典明は目の前の、手を握り向かい合う彼女、莉緒をじっと見る。

彼女の過去の話はすべて聞いている。
白い壁のなか、外を眺めるだけの毎日。その一生も。

だからこそ、そんな彼女を愛したからこそ彼は思うのだ。

必ず、幸せにしてあげたいと。

白い壁の部屋、白い服。

「僕は、君を幸せにできているかな?」

声は泣きそうになっていなかっただろうか。
そんなことが少し気になりながらも、それより目の前の彼女が気になって仕方ない。

一回り小さい彼女は、自分よりも小さく弱い存在であるのにいままで何度も自分を助けてくれた。
その命を懸けて。

彼女の手を握ると、その手は暖かく少し震えていた。
彼女の顔を見ると、その大きな瞳から、涙が零れ落ちた。

ゆっくりと、その時間が長く感じる。
先ほど、典明が入ってくるまで莉緒は窓を開けて外を見ていたのか、
窓から入ってくる風は少し肌寒く、春先とはいえこの季節は今雪も残っている。


「あの、ね、本当に」

「君以外考えられないよ。」


莉緒の言わんとすることをさえぎる。

この後に続く言葉は、もうわかっていたから。

窓から、一陣の強い風が吹く。
暖かい風。先ほどとは違う。

それに、彼女の頭にかかっていたヴェールが飛ぶ。

「だとしたらね、私は幸せだよ。これからも、ずっとね」

「そっか…、」


その言葉を聞いて、典明は莉緒を強く抱きしめる。

白いドレスに身を包んだ、大事な大事な花嫁を。


「一生君を大事にする。君が今まで見られなかったものをすべて見せてあげる。だから……だから、僕と家族になってください。」

「…はい、喜んで。カキョ」

「ダメだよ、莉緒。これからは君も花京院なんだから」

「あ、そうだった……うん、典明君。」


彼女は笑う。
彼も笑う。



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