短編 | ナノ
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『パリーンッ』


と、昔のことを回想していたらカップの割れる音がした。


ボスがこの家に来て食器を割ったのは何回目かと思いながら私はボスに近づく。


「ジャスト20分。指先の痺れですか?」


「ヨシノ……ッお前何を」


「カフェラッテにはなにも入れてませんよ」


カフェラッテには。ともう一度繰り返すとボスはすぐにコルネットになにか入れたんだと気づいた。


「正解です。テトロドキシンですよ、いま第一段階の症状出てますね」


「冷静に分析するなッ……」


「神経毒なら今度こそボス死ぬかと思いまして」



どんどん麻痺が進行しているのか、ボスは話しもしなくなる。私はそれをただ眺めていた。

しばらくして、ついに息をする音すら聞こえなくなる。



「………こんどこそ」


永久に目が覚めませんように、と願いながら私はまだ置いてある食器を片づけ始める。ボスが死んだらどうしようか。葬式をしないのはもちろんとして、墓は建てておくとして……


『ガタッ』



と、考えているうちに生き返った。精神毒でも死なないかこのボスは。


「おはようございますボス。また駄目でしたか」


「駄目も何もやめろッ……」


怒られた。もう心底嫌そうな声で。そうはいわれても、ボスは放っておいたらもうこの死のループからのがれることは絶対にないのに。



「毒なら体内に残留してそのうち永眠すると思ったんですがそうもいきませんね」


なかなか、私の目標は達成されないと思いながら溜息つき言う。


「刺しても死なない、毒でも死なない、轢いても死なない、撃っても死なない。バリエーションがなくなってきましたね。」


次何やります?とボスに訊くと目をそらされた。本当は、私だって崇拝していた人間を殺すのは嫌だ。でも、これをできるのはきっと私だけのはずだから。


「ボスが死ぬまで続けますよ」


苦痛からいつか解放するために、何回も殺そう。


『いつか貴方が完全に死ぬ日まで』




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