ヘブンズパス

第五夜 1



 それからナズナに追いつくために必死に進む。ナズナの放つ光は遠くからでもよく見えるのだが、弱々しくしか動かない翼では近づけない。

 閃光が見える度、悪魔の気配が消えていく。中には先程の悪魔よりも強い力のあるものもいた。違うエリアに来てみても天使の気配は全くしない。既に食べ尽くされてしまったのか。

 縮むどころか広がっていく距離に絶望を感じたが、それでも俺は飛び続けた。既に力はなくなっているはずなのに、どこにそんな力があるのか。

 ナズナに会いたかった。でも、ナズナが俺を殺して泣くくらいなら、俺はこのまま力尽きた方がいいのかもしれない。こんなことしてもナズナは喜ばないだろう。

 そんなことも思ったが、俺は飛び続けた。何度ふらついても飛び続ける。他から見たら無駄な力が俺を突き動かしていた。殺されるためかもしれないのに動かない翼を動かす。散々馬鹿にしていたが、実際感じてみるととてつもなく強い力だった。


 だが、それも限界だった。地面擦れ擦れのところを飛行していたが、遂に墜落した。それでも這って進んだ。ナズナよりも小さくなった白い光はさらに小さくなっていく。泣きそうになったが、泣く力があったら、一ミリメートルでもいいからナズナに近づきたかった。顔を上げると、白い花が俺を見下ろしていた。どこにもあると言っていたが、本当にどこにもあるんだな。最後のこの花を見られるなんて、俺はまだ少しは幸運なのかもしれない。無力な俺は最後まで何もできなかった。

 晴天の色に包まれた白い花が消えていく。


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