short novel

名もなき自由




 視線を感じたのでフォーの方を見れば、ニヤニヤ笑っていた。


「あとね、あなたは英語の番号で呼ばれているような、組織にいる冷酷な人間じゃないって意味もこめて……」

「本当に優しかったら、最初から女の子を殺そうなんて考えない!!」


 フォーの言葉を遮って俺が怒鳴っても、フォーは少しも驚かなかったようで話をすぐに再開した。


「じゃあ、何であの子を助けたの?」

「それは……。しかたなかったんだ」

「しかたなかった?そうしたかったからじゃなくて?」


 ……さすがはフォー。全てを見抜いているようだ。俺は何も言えなくなった。


「ねぇ、ロク。組織では命令にしたがっていたけれど、それは生きるためよ。命令に従わないと殺されるから。だけど命令に従わないで死ぬことを選ぶのも自由なはずよ。めったに選ぶ人はいないけれど」


 ……どうせ、俺はそのめったにいないバカな奴だよ。フォーの言葉をこれ以上聞く時間は俺にはないので、また口をはさんだ。


「俺がそのめったにいないバカなのは分かったよ。だから、俺をそろそろ逃がしてくれないか?」

「ダメよ」


 俺は嫌な予感が背筋をスッとはしって、ゆっくり聞いた。これは本当だったら、一番最初に聞かなければいけないことではなかったんじゃないか?



「……フォーは俺を殺しに来たのか?」


 フォーはしばらく笑ってから、ふと表情を変えた。



 その時の表情を、俺は上手く説明できない。


 ……笑っているんだけど、何かあったかいっていうか、ふわふわしてるっていうか、まぶしいというか……。




 とりあえず、俺はその表情を見てフリーズしてしまった。





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