short novel

名もなき自由





 シックス。



 それが俺の組織の中での名前だった。



 しかし彼女だけは、俺のことを『ロク』と呼ぶ。


 日本出身の彼女からすれば、6をシックスと呼ぶよりも、ロクと発音する方が自然ならしい。



 だが、決められた番号の呼び名で呼び合うことが暗黙の了解である組織の中では、それはとても奇妙なことだった。



 彼女に幾度となくそのことについて聞くと、彼女はいつも平然と答えるのだった。



『ロクも6という意味だから別にいいじゃない』



 それと日本には『ロクデナシ』という言葉があるそうで、任務中の俺の言動はまさにその言葉通りらしい。いつも教えてくれないが。



 日本になんて行ったこともなければ、年下である俺にはその言葉の意味がよく分からなかった。




「ちょっとロク! 止まりなさい!! 年長者命令よ!」

「追ってくるな!! 俺はもう、組織の人間じゃないんだ!」


 どこから追ってきているか知らないが、俺が猛ダッシュしているというのに余裕でついてくる。



「……やっぱり、あの女の子のこと殺せなったのね」


 今回の任務のことは概要しか知らないくせに、全て分かっていたかのような言葉に、俺はやっと足を止めた。





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