short novel

心は雪崩注意報




「だって、遠くに離れていても今日も頑張っているんだって知らせてくれるじゃないですか」


 この寒さであっという間に冷めてしまった紅茶さえも、ふわっとあたたかくなった気がした。私はその紅茶のカップをそっと手に取った。



「会えない誰かに自分が今日も頑張っているんだって伝えられるのって幸せですよね」


 私は紅茶を飲み終えてカップを静かに置いた。常に魔法と隣り合わせのこの街でも、そんな魔法は存在しないだろう。


 呆然としているマスターに私はティーカップののったお皿をテーブルの端に持って行って言った。


「マスター、紅茶もう1杯もらえますか?」

「いいけれど、君が2杯目を頼むなんて珍しいね」


 私が何か答える前に、マスターはティーカップをお皿ごと持ってどこかへ行ってしまった。



 私は誰も聞く者がいないと知っていたけれど、そっとつぶやいた。


「今日も頑張っている彼に、まだ『頑張って』って伝えたいから」




心は雪崩注意発信中
何よりもあたたかい魔法を今日も――



fin.

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