short novel

心は雪崩注意報




「あれでもずいぶんマシになったんですよ」


 私が『彼』を擁護するように言うと、マスターは苦笑いをした。


 『彼』は子供にとっては天使、大人にとっては悪魔のように扱われているのだ。



「そういえば、知り合いだったんだよな」



 私は昔からこのお店の常連なので、マスターはいろいろなことを知っている。


「えぇ。昔は彼のせいでしょっちゅう大雪が降って、雪崩になって大変だったんですから」



 私は当時のことを思い出しながら、目を伏せた。雪を見ると、いつも思い出してしまう。



「そういえば、……そんなこともあったな」


 思い出したくもないようで、マスターはうつむいて言った。『彼』の知り合いである私の前だから気を遣っていてくれるようだ。



 だが、もし私の前でなければさっき外を歩いていた中年の男性のように悪態をついているだろう。



 魔法学校の留年記録をダントツで更新してしまった『彼』は、どんな魔法も大雪を降らせるものに変えてしまう才能を持っている。よって『彼』が魔法を使う度に、この温暖な街にも雪が降ってしまう。


 今日も雪が降っているところを見ると、いまだに魔法学校の留年記録を更新中だろう。



「この雪を見て余裕でいられるのは君くらいだよ」


 私が『彼』を思い出して微笑んでいると、マスターが言った。





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