short novel

北風と太陽





「『北風と太陽』に出てくる旅人はさ、厚着してたんだよな」


 シャインがうなずくのを見てから、ノースウィンドは続けた。


「なんで厚着してたんだろうな」




 その言葉を聞いて、シャインの表情が凍りついた。



「シャイン!!」


 横で王女が名前を呼んでも、シャインの服を引っ張っても、シャインは何も反応しない。


「旅人が厚着してたのはさ、寒かったからじゃないのか?」


 シャインはそれを聞くと、電流でも触ったかのように体をビクッと震わせた。




「つまり、最初から寒くなければ太陽が脱がすはずの服もなかったんだよ。お前が王子になったこの国だってそうだ」


「どこが同じだっていうのよ!」


 炎がすぐ側まで来ているのに、何でもないように話をしているノースウィンドに王女は叫んだ。しかしノースウィンドは全く聞こえてないように、シャインに吐き捨てるように言った。



「お前の今の地位はかつて、俺みたいな戦いで戦った汚れ役の上に成り立っているんだよ!それがなければ、この王国自体も存在しなかっただろう」

「無礼者! 今すぐに……」

「黙れ!!」


 ノースウィンドは初めて王女に答えた。



「お前がつかんだものを、俺はひがんでいるわけじゃない。ただ、お前の今の地位はそういう何かの犠牲の上に成り立っていることを忘れるな」



 ノースウィンドは静かにそう言うと、現れた時と同じようにまた風のように消えた。



 それからしばらくして、ようやく、部屋の炎も消えていることにシャインは気づいた。





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