short novel

北風と太陽







「全く、不器用な奴だな。大人しくしていれば、衛兵にでも出世したのかもしれないのに」



 暗く、どんよりした空気の中だからか、看守の声はじめじめして聞こえた。



「衛兵?あいつのために働くなんてまっぴらだね」


 手がやっと通るかの隙間からでも、ノースウィンドのふてぶてしい態度は少しも衰えなかった。


「だからって、王族をバカにした上、衛兵に暴力をふるうことはないだろ」


「あいつは勝手に転んだだけだ。それよりも……」



 看守が半分腐りかけたパンを置こうとすると、ノースウィンドがふと表情を固くして言った。



「……悪いことは言わない。今すぐこの国からなるべく遠いところへ行ってくれ」


 まだノースウィンドとは会って間もない看守だが、それでも、人に頼みごとをするような性格ではないことくらい分かる。



 驚いて何も言えないまま、ノースウィンドを見つめていた。



 しかししばらくすると、頭を軽く振って言った。



「……お前みたいなやつでも、何日も牢屋にいると頭がおかしくなってくるんだな」

「違う。この国は、もうじき大陸の戦いに巻き込まれる」

「だからどうした。我らが無敵のボヤージュ国が苦戦をするとは思えん」


 真剣に話すノースウィンドに対して、看守は冷たく笑っただけだった。


 その様子を見て、ノースウィンドはため息をついて、重々しく口を開いた。





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