時計屋未来店〜for only he ver.〜 「いいです」 気が付くと私はそう言っていた。 「私、時間とか、この先どうなるかとかそんなの関係なく、あの人が好きなんです。あの人が元気で笑っていてくれるのなら、会えなくたっていいんです。だから、その時計は私には必要ありません」 言い終わって、目の前の輪郭がパッと灰色から黒へ変わる。 「そうですか。思いは時になんて影響されませんからね。またこのお店を見かけたらいらっしゃってくださいね」 「はい」 全く驚いていないおじいさんにお辞儀をすると、私は店を出た。 ドアが壊れないようにそっと閉めて、しばらく歩いて振り向くと、そこには寂れた空き地があるだけだった。 私はそれを見届けると、もう振り返ることなく歩き出した。 当分、あの砂時計の砂は落ちることがないだろう。 もしかしたら、その砂は、永遠に落ちることがないかもしれない。 fin. prev/next |