short novel

時計屋未来店〜for only he ver.〜




「あなたはどの時計をお探しですか?」



 いや、時計屋さんなんだから変なことではないかと思い直して、私は慌てて答えた。


「今日は、時計を探しに来たんではないんです」


 あっ、言い方が失礼だったかなと後悔した矢先、おじいさんは暗がりでもよく分かるくらい首をひねって言った。


「おかしいですね。ここは時計を探している人しか来ませんのに」


「えっ?」



 私が何を言ったらいいか困っていると、おじいさんの声は話を続ける。


「ここには悩み事や不安なことがあって、時計が必要な方しかいらっしゃらないのです。こちらの未来店にいらっしゃったということは、何か未来に問題を抱えているのではないのですか?」




 それは的の真ん中どころか、そのまま的だった。何も言えない私に構わず、おじいさんの話を続く。



「例えばそこの、長針が秒針のように回っている時計。それは新しい恋に胸を躍らせているものの、この先を憂いている方の時計。その隣の、進んでいるか分からない時計。それは友人と喧嘩して仲直りできるか心配している方の時計です。
このように、当店は未来に悩み事や不安がある方があとどれだけの時間を過ごせばそれらを解決できるか示したものなのです。どんなに苦しくても、あとどれくらいの時間か分かれば楽になるでしょう」





 なるほど。やっとこのお店がどんなお店なのか分かった。そして、どうして私がこのお店に呼ばれたのかも。




 私はたどたどしく言葉を繋いで、口から出した。





3/6

prev/next



- ナノ -