short novel

時計屋未来店〜for only he ver.〜





 大好きなはずの赤色の携帯は、夕日と電灯に反射してなんだか違う色にしか見えなかった。


 しかし輪郭が灰色に見える視界で、唯一それだけが鮮やかだ。




 ふと何かに呼ばれたような気がして顔を上げると、そこには今までみたこともないお店が建っていた。

 いや、倒れかかっていた。


 外見からまず異様。今にも崩れそうな壁。元が何色だったとしても、最初からくすんだ茶色にしか思えない屋根。雨が降ったら雨漏りして、おそらく半分地面でできた床に水たまりを作るに違いない。蜘蛛の巣のような割れ目ができている窓。引いたら取れそうなドア。

 そして極めつけは、私が唯一元はお店だったと認識できた斜めがかった看板。そこにはペンキが剥げかかっていてよく読めなかったものの、『時計屋未来店』と書かれていた。


 未来店って何だろう……。私は『未来店』という名前に興味があったのと、気味が悪いと思ったものの半々だった。



 だがそこにもうどうにでもなれという発作のような衝動的な気持ちが加わって、私は中に入ってしまった。





1/6

prev/next



- ナノ -