short novel

予知夢





 どんなに目を凝らしてみても、真っ黒な木の陰しか見えない。


 更にその向こうには灰色がかった霧で覆われていて、そこに空間があるのかさえも分からない。



 私はその濃い霧で覆われた深い森の、不自然に伸びた一本道を歩いていた。





 この夢は最近私が毎日のようによく見る夢で、私はその永遠に続くとさえ思う道を歩き続けているのだ。私にはこの先何があるのか、何を目指しているのか分からない。


 それでも時に何かに呼ばれるように、時に何かに憑りつかれたように、私は今日もその道を歩いていた。



 振り返ると、もうずいぶん歩いたような気もするが、まだ全然進んでないような気もする。どっちにしろ、今まで進んできた道も灰色にしか見えない。それが空間だと思えるのは今まで歩いてきた道だからだ。


 いや、もしかしたらあの灰色の霧はもう平面になっていて、どんどん私を追い詰めているのかもしれない。そこには真っ暗闇とはまた違った恐ろしさがあった。



 それでも、今は進むしかない。どうしてもいつもたどり着けないこの道の先にあるものを、どうしても知りたい。




 ふと頭上を見上げると、太陽の光が霧の向こうから注いでいた。そこから霧が金色に変わっていく。あまりの眩しさに私は目を細めた。もう、朝が近いのかもしれない。


 今日もたどり着けなかったか。私があきらめて細めた目をそのまま閉じようとすると、声が聞こえた。私が驚いて振り向くと、眩しくてよく見えないが人が一人立っているようだった。



「……待って、いる、から……?」



 彼とも彼女とも分からないそれは、首を上下に動かしたように思えた。そしてそのまま光の中へと消えていく……。





 これがただの夢なのかは、目が覚めた後どんなに考えても分からなかった。ただの夢にしては明確だ。


 かといって何かを暗示しているにしては曖昧すぎる。最後の言葉が何を指しているのかはまだ見当もつかないが、私にはこの先何かが起こるような予感があった。




「待っているから、か」





 いつか私は、この夢を何かのはじまりと呼ぶのかもしれない。





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