short novel

五月病という名の長期的精神症状




 早く来すぎたと思ったのは、どうやら間違いだったらしい。

 案内された席に向かうと、先にドリンクバーを頼んだのか、男の傍には空のグラスが3つほど並んでいた。中の氷は溶けて丸みを帯びている。一体、どれほど前からここで待っていたのだろう。


「やあ、待っていたよ」


 顔を覚えられるほど通った記憶がないファミレスで、そのまま席に案内させるには、一体どのような手段が必要なのだろう。写真でも見せたのだろうか。


 彼は『会いたかった』とは言わなかったので、彼女はそれらの疑問を店員と一緒に下がらせた。


「そんな険しい顔しないで、ハニー」


 この男は、ある仕事がきっかけで一時使った呼び方がお気に入りで、そのような事実がなくとも普段から使っている。

 彼女はまさか仕事以外でもそうだとは思っていなかったのでさらに眉間に皺を寄せた。


「私の名前は、ハニーではないのだけれど」


 俯いてさらに不機嫌そうな声で答えても、男は楽しそうに笑い声を上げる。


「そういうところが好きだよ、ハニー」


 誰かこの軽薄男を何とかしてくれないかと店内を見渡すと、向かいの席に注文を取っている店員と、子供連れの親子と、遠くでは若いカップルがいるだけだった。





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