short novel

君に会えない日にも君へ愛を








「ピピピッ、ピピピッ」




 規則正しく鳴る電子音で、いつもなら今日もこんな私に朝がきたのだということを知る。




 でも、最近は違う。




 あぁ、あれも夢だったんだ……。





 そう思うと、同時に涙が溢れそうになる。さっきまで見ていた夢はもそれほどまでに幸せで、現実のように幸せで、現実のように思えたのだ。



 ……いや、思いたかっただけかもしれない。




 あの人と別れてから何カ月も経つが、夢はどれも五感がはっきりしていて、まるで夢の中でも生きているかのような錯覚に陥る。





 平安時代の人は誰かが夢に出てくると、その誰かは自分のことを思ってくれているから夢に出てくると考えていたらしい。


 それを聞いた時は、なんてバカな考えだと思ったが、あれから何年か経った今はそうであったらいいなと本気で思う。いや、願う。せめて、思い込めたらと思う。





 そしたら、夢にあの人が出てきても、こんなに悲しくなることはないのに。





 しかし、それと同時に安心もする。



 私、まだ、あの人のことが好きなんだって。



 あれからずいぶん時が経って忘れなきゃいけないはずなのに、私はまだ何も忘れたくなかった。






「いい加減に起きなさい!!」


 床の左斜め下からお母さんの声がする。



 いけない、もうこんな時間!!



 わたしは急いでベッドから飛び起きて部屋を出た。




君に会えない日にも君へ愛を
もしもの未来のために今日を





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