short novel

白馬の王女





「こんなことしたって何にもしないわよ」

「そんなの関係ないんだよ! いいか写真をばらまかれたくなかったら言うことを聞くんだ」

「ったく、少し名前が売れてるからって調子に乗りやがって」



「待ちなさい!」



 私が屋上に着くと、男子3人が悠里を取り囲んでいた。悠里は……服はちゃんと着てるからまだ何もないのだろう。ここからはケガしているようにも見えない。


「……萌!」

「悠里、無事?」


 私がペガサスから降りて、悠里に駆け寄ろうとすると、男子が壁を作る。


「化け物連れてきやがって! でもまとめて倒してやるよ」


 男子はペガサスに驚くどころか、笑っている。


「お楽しみが増えたな。悠里よりは劣るけれどな」

「体はいいかもしれねぇぜ」

「まずはあの化け物からだ!」


 下品な笑い声をあげながら、男子はナイフを取り出した。そのままペガサスに駆け出す。


「止めてぇ!!」


 私がペガサスをかばおうとすると、突風が吹き荒れた。


「何だ!」

「うわぁ!」

「ぎゃあ!」


 3種類の男の叫び声が聞こえたかと思って、風が止んだのを待って眼を開けると、男子3人が倒れていた。ナイフはどこか消えていた。


「ブルルッ」


 馬が威嚇して、地面を蹴り上げると、男子は後ずさりする。


「いい? これ以上悠里と馬に手を出さなければケガさせないでいてあげるわ」


 私はよく分からなかったけれど、ペガサスが私たちを助けてくれて、彼らにはペガサスの言葉が分からないということだけは分かった。

 ということで、ペガサスに代わって話す。なぜかペガサスの言いたいことはだいたい分かった。


「あと萌にもね」


 悠里がいつの間にか私の隣にいて、見たことのないくらい怖い顔をしていた。……それでも美人だけれど。



「ついでに、萌に手を出したらこれから仕事がなくなるくらいのことも私はできるわ」


「ひぃ!」


 男子は後ずさりしたまま逃げ出していった。




「すごいね、どうしたの、この……ペガサス?」

「悠里を助けに来てくれたのよ」


 悠里はペガサスにしばらく見とれていたけれど、やがて私に微笑む。


「いや、私を助けに来たというよりは、萌のことを助けたかったんじゃないかな?」


 悠里がそう言うと、それの通りだというようにペガサスが鼻をすりつける。


「あはは、くすぐったいって!」


 悠里が無事で本当に良かった。


「じゃあ、午後の授業がはじまるからそろそろ戻らないと」

「あっ、そっか、悠里仕事だもんね」


 こんなことがあった後なのにそんなことが言えるなんて、悠里はもしかしたらこんなこと慣れているのかもしれない。


「そうだね。悠里は仕事遅れちゃう」

「助けに来てくれて嬉しかったけれど、萌も女の子なんだから、こんな危ないことしちゃダメだよ。萌が心配だから駆けつけてくれたのもあるんじゃない?」

「はーい」


 私がうなだれていると、悠里は笑って言った。


「でもペガサスに乗った萌、本当にかっこよかったな。その辺のバカな男子よりずっとかっこよかった」

「うぅ、ありがとう」

「白馬の王子ならぬ『白馬の王女』だよね」

「それは、悠里の方が合うって!」

「私じゃペガサスは呼べないかな〜」


 悠里がそう言うと、今度は私に鼻をすりつけてくる。


「さて王女様、私をペガサスで送ってください」


 王子の役になりきってそういう悠里は本当にかっこよかった。本当に自分が王女になってしまったような気にもなる。


「悠里、役者にもなれるよ」

「何、それ。かっこわるいセリフしか言ってないけれど。それに私は馬に乗れないから難しいかな〜」

「練習すれば乗れるって!」

「そう言う萌は、自分で王子様を見つけに走れそうだね」

「そんな!」

「ペガサスに乗ってる萌なんて、キューピッドの矢いらずだね」

「悠里言い過ぎ!」

「あはは」


 私も笑いながら悠里をペガサスの背にのせる。その後私が悠里の後ろに乗ると、ペガサスは再び舞い上がった。

 私たちはそれからしばらく、笑いながら空の旅を楽しんだ。




 悠里を助けられて嬉しかったけれど、私には1つ不安なことがあった。





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