short novel

某国の王女




 王族である以上、本当に待ちわびるのは暖かで柔らかな春などであってはならない。





 遠くの空が騒がしい気がしたが、やはりまた何かあったようだ。


 彼女が話を聞いてそのことに思い当たっても、玉座に座したまま駆けて報告に来た臣下に告げる。


「いちいち報告しなくてもいいのよ。私はもうあの国の”姫”ではないのだから」


 そう言ったものの、苦笑する王女は臣下には”姫”に映るらしい。確かに、彼女は女性というには、まだ少女の面影を残しすぎているのだが。


「しかし、このままでは、この国の土地では収まりませぬ」


 王女は今度は大きな声をあげて笑った。ひとしきり笑った後、困惑する臣下に王女は告げる。


「さて、どこまで周りの人が減ればあの子は気づくのかしら。案外、自分以外誰もいなくなっても気づかないかもしれないわね、あの子は」

「それで良いのですか?」


 臣下にはもちろん、王女の指す「あの子」というのが誰のことであるか分かっている。

 それもあって、臣下の目には王女が”自暴自棄”と映るのだろう。


「えぇ」


 王女は無表情に断言する。


「あの子に運命は変えられなくても、私には運命を変えられるから」

「さようですな」


 片膝をついていた臣は、やっと納得したように床から膝を離す。


「引き続き扉は開けたままに。聡明な民が増えることは良いことなのだから、城も一部開放しましょう」

「はっ!」


 臣下が去っていくのを見送りながら、王女は一人呟く。



「さて−−」



 その視線は再び窓の外へ。彼女の母国がある方へ向いていた。




1/3

prev/next